熱力学

熱力学-10|定積変化と定圧変化の違い

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ここまで、定積変化と定圧変化にともなう熱力学量変化の計算方法を見てきました。そして、定積変化は内部エネルギーと、定圧変化はエンタルピーと関係していることがわかりました。その中でよく似た式も出てきたので、ここで定積変化と定圧変化の違いをもう少し詳しく見てみましょう。

始めの状態

まずは始めの状態をしっかり考えます。

ピストンの中に \(\small 1.00\,\text{mol}\) の理想気体を入れ、温度を \(\small 273.15\,\text{K}\) とします。また、外圧は大気圧 \(\small 101.3\,\text{kPa}\) とします。


この条件の下で平衡状態にあるとき、ピストンに入っている理想気体の体積はどのように与えられるでしょうか。

図1において平衡状態とは、ピストンが動かなくなった状態のことです。もし理想気体の圧力が大気圧より大きければピストンは上に動きます(図2左)。一方、理想気体の圧力が大気圧より小さければピストンは下に動きます(図2右)。


したがってピストンが動かないということは、理想気体の圧力は大気圧と等しくなっていることを意味します。以上から、ピストンに入っている理想気体の圧力は \(\small 101.3\,\text{kPa}\) であることがわかります。ここで理想気体の状態方程式を使えば、理想気体の体積 \(\small V\) を計算することができます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle V&=\frac{1.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times273.15\,\text{K}}{101.3\times10^{3}\,\text{Pa}}\\&=0.02241\dots\,\text{m}^{3}=22.4\,\text{L}\cdots(1)\end{align}}\)

これが始めの状態です。

定積変化

図3を始めの状態として、定積条件で \(\small 373.15\,\text{K}\) まで理想気体を加熱することを考えます。定積条件なので、理想気体の体積は \(\small 22.4\,\text{L}\) のままです。そこで、加熱する前にピストンを固定してしまいます。


理想気体の状態方程式を考えると、体積が変化せずに温度が上昇した場合は圧力が高くなるはずです。そこで実際に圧力を計算してみましょう。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle P&=\frac{1.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times373.15\,\text{K}}{22.4\times10^{-3}\,\text{m}^{3}}\\&=138.5 \,\text{kPa}\cdots(2)\end{align}}\)

したがって、加熱した後の状態は図5で表されます。

図4から図5への状態変化によって理想気体が吸収した熱は定積変化における熱 \(\small Q_{V}\) です。この熱は内部エネルギー変化 \(\small\Delta U\) であり、定積モル熱容量 \(\small C_{V,m}\)(ここでは \(\small 20.8\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) とします)を使って計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}Q_{V}&=\Delta U=nC_{V,m}(T_{2}-T_{1})\\&=1.00\,\text{mol}\times20.8\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\qquad\times(373.15-273.15)\text{K}\\&=2080\,\text{J}\cdots(3)\end{align}}\)

定圧変化

次に、図3を始めの状態として、定圧条件で \(\small 373.15\,\text{K}\) まで理想気体を加熱することを考えます。このとき定積条件とどこが違ってくるのでしょうか。ここでいう定圧は外圧、つまり大気圧のことです。そこで、大気圧は \(\small 101.3\,\text{kPa}\) のままでピストン内の理想気体を加熱するとどうなるか考えてみましょう。

\(\small(2)\,\)式で計算したように、体積が変わらないままだと温度上昇とともに圧力は増加します。定積変化であればピストンは固定されていたので、そのまま圧力が増加しましたが、定圧変化の場合はピストンを固定していません。その状態で理想気体の圧力が増加すると、ピストンを上に押す力のほうが強くなるのでピストンが上方に移動します。

ピストンが上方に移動することは理想気体の体積が増加することを意味します。ボイルの法則から、理想気体の体積が増加すると、その圧力は減少します。そして、理想気体の圧力が大気圧と等しい \(\small 101.3\,\text{kPa}\) になるとピストンの移動が終わります。


このように、定圧変化の場合は体積が変化します。これにより体積変化にともなう仕事が生じるので、加えた熱のうち一部は仕事に使われることになります。ここが、加えた熱がすべて温度上昇に使われる定積変化と異なる部分です。

そうすると、定積変化のときと同じ温度にするためには、定圧変化ではより多くの熱が必要と考えられます。実際に計算してみましょう。

定圧条件で \(\small 373.15\,\text{K}\) まで理想気体を加熱したとき、体積は膨張します。理想気体の状態方程式を使うと、膨張後の体積が求められます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle V&=\frac{1.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times373.15\,\text{K}}{101.3\times10^{3}\,\text{Pa}}\\&=0.03062\dots\,\text{m}^{3}=30.6\,\text{L}\cdots(4)\end{align}}\)

以上から、加熱した後の状態が図7で表されます。


図3から図7への状態変化では体積が変化しているので、体積変化にともなう仕事 \(\small W\) を計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}W&=-P(V_{2}-V_{1})\\&=-101.3\times10^3\,\text{Pa}\times(30.6-22.4)\times10^{-3}\,\text{m}^3\\&=-831\,\text{J}\cdots(5)\end{align}}\)

ではこの定圧変化によって理想気体が吸収した熱 \(\small Q_{p}\) はいくらでしょうか。定圧変化なので吸収した熱はエンタルピー変化 \(\small \Delta H\) と等しく、定圧モル熱容量 \(\small C_{p,m}\)(ここでは \(\small 29.1\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) とします)を使って計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}Q_{p}&=\Delta H=nC_{p,m}(T_{2}-T_{1})\\&=1.00\,\text{mol}\times29.1\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\qquad\times(373.15-273.15)\text{K}\\&=2910\,\text{J}\cdots(6)\end{align}}\)

\(\small(3)\,\)式と比較すると、同じ温度まで上昇させるのに必要な熱は定積変化よりも定圧変化のほうが大きいことがわかります。また、\(\small(3)\,\)式と\(\small\,(6)\,\)式の差と\(\small\,(5)\,\)式を比較すると、理想気体が外界に対して行った仕事の分だけ必要な熱が大きいこともわかります。

ちなみに\(\small\,(3)\,\)式で求めた、定積変化で \(\small 273.15\,\text{K}\) から \(\small 373.15\,\text{K}\) まで理想気体の温度を上昇させるのに必要だった \(\small 2080\,\text{J}\) の熱を定圧変化で与えると、どこまで温度が上昇するでしょうか。

これは\(\small\,(6)\,\)式を使うことによって求めることができます。

\(\small\color{blue}{Q_{p}=nC_{p,m}(T_{2}-T_{1})}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow\displaystyle T_{2}-T_{1}=\frac{Q_{p}}{nC_{p,m}}}\)
\(\small\color{blue}{\begin{align}\Rightarrow\displaystyle T_{2}&=T_{1}+\frac{Q_{p}}{nC_{p,m}}\\&=273.15\,\text{K}+\frac{2080\,\text{J}}{1.00\,\text{mol}\times29.1\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}}\\&=344.63\,\text{K}\cdots(7)\end{align}}\)

予想されるとおり、理想気体の温度は \(\small 373.15\,\text{K}\) まで上昇しません。そして体積は最初の状態から膨張しているので、膨張後の体積を求め、理想気体が外界に対して行った仕事を計算します。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle V&=\frac{1.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times344.63\,\text{K}}{101.3\times10^{3}\,\text{Pa}}\\&=0.02828\dots\,\text{m}^{3}=28.3\,\text{L}\cdots(8)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{\begin{align}W&=-P(V_{2}-V_{1})\\&=-101.3\times10^3\,\text{Pa}\times(28.3-22.4)\times10^{-3}\,\text{m}^3\\&=-598\,\text{J}\cdots(9)\end{align}}\)

与えられた \(\small 2080\,\text{J}\) の熱のうち \(\small 598\,\text{J}\) は仕事に使われるため、残りは \(\small 1482\,\text{J}\) です。この熱で温度を上昇させるので、すべての熱が温度上昇に使われる定積変化に比べて温度上昇は小さくなるわけです。

まとめ

定積変化と定圧変化の違いを見てきました。与えられた熱が仕事に使われるかどうか、そこが大きな違いでした。こうやって見ていくと、それぞれがどのような変化なのかイメージしやすくなってくるのではないでしょうか。