熱力学

熱力学-08|定積(定容)変化

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\(\small n\,\text{[mol]}\) の理想気体が何らかの影響を受けて、状態が変わったとします。変化前を状態1、変化後を状態2として、変化前後での圧力 \(\small P\)、体積 \(\small V\)、温度 \(\small T\) を記号で表したのが図1です。ただし、ここで考えるのは閉鎖系とし、理想気体の物質量は変わらないものとします。

この状態変化が起きたときの熱力学量変化を計算する式について求めます。このとき、変化の仕方によって得られる式が変わるので、場合分けをして計算式を導出します。

今回は体積(容積)を一定にしたままでの変化、定積(定容)変化を扱います。

定積変化の仕事は0

まずは仕事の計算です。体積変化にともなう仕事 \(\small W\) の基本は\(\small\,(1)\,\)式でした。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=-P\text{d}V\cdots(1)}\)

定積変化の場合、体積は変化しないので、図1の \(\small V_{1}\) と \(\small V_{2}\) は等しいです。したがって、体積の変化量 \(\small\Delta V\) は \(\small 0\)、また微小変化 \(\small\text{d}V\) も \(\small 0\) です。

\(\small\color{blue}{\Delta V=V_{2}-V_{1}=0\cdots(2)}\)
\(\small\color{blue}{\text{d}V=0\cdots(3)}\)

\(\small(1)\,\)式に\(\small\,(3)\,\)式を代入することによって、定積変化の仕事は \(\small 0\) であることがわかります。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=-P\text{d}V=0\ \Rightarrow W=0\cdots(4)}\)

定積変化でやりとりされる熱は内部エネルギー変化と等しい

\(\small(4)\,\)式から、定積変化の仕事は \(\small 0\) であることがわかりました。熱力学第一法則にこの関係を代入すると\(\small\,(5)\,\)式が成り立ちます。

\(\small\color{blue}{\Delta U=Q_{V}+W= Q_{V}\cdots(5)}\)

ここで、\(\small Q_{V}\) は定積条件でやりとりされる熱を表します。

\(\small(5)\,\)式から、定積変化でやりとりされる熱は内部エネルギー変化と等しいことがわかります。たとえば、体積一定の条件で系が \(\small 5\,\text{J}\) の熱を吸収したのであれば、それは系の内部エネルギーが \(\small 5\,\text{J}\) 増えたことを意味します。あるいは、体積一定の条件で系が \(\small 8\,\text{J}\) の熱を放出したのであれば、それは系の内部エネルギーが \(\small 8\,\text{J}\) 減少したことを意味します。

これはあくまでも定積変化の場合です。どんな変化でも系と外界の間でやりとりされる熱と内部エネルギー変化が等しいわけではありませんので、注意してください。

熱容量を使って熱を計算する

熱容量を使って\(\small\,(5)\,\)式をもう少し計算できる形にします。まず、熱容量の定義から\(\small\,(6)\,\)式が得られます。

\(\small\color{blue}{\text{d}Q_{V}=C_{V}\text{d}T=nC_{V,m}\text{d}T\cdots(6)}\)

ここで、\(\small C_{V}\) は定積条件での熱容量を表していて、定積熱容量と言います。また、\(\small C_{V,m}\) は定積条件での \(\small 1\,\text{mol}\) あたりの熱容量を表していて、定積モル熱容量と言います。計算するときにデータとして与えられるのはモル熱容量が多いので、以下ではモル熱容量を使って式を導きます。

定積変化で系の温度が \(\small T_{1}\) から \(\small T_{2}\) まで変化したときに系と外界でやりとりされた熱 \(\small Q_{V}\) は、\(\small(6)\,\)式を積分することによって計算できます。

\(\small\color{blue}{\displaystyle Q_{V}=\int_{T_{1}}^{T_{2}}nC_{V,m}\text{d}T\cdots(7)}\)

いまは閉鎖系を考えているので、物質量 \(\small n\) は変化せず一定です。また、定積モル熱容量 \(\small C_{V,m}\) が温度によらず一定であると仮定すると、\(\small(7)\,\)式の積分をさらに進められます。

\(\small\color{blue}{\displaystyle Q_{V}=nC_{V,m}\int_{T_{1}}^{T_{2}}\text{d}T=nC_{V,m}(T_{2}-T_{1})\cdots(8)}\)

したがって、状態変化前後の温度がわかれば、熱を計算できます。さらに\(\small\,(5)\,\)式から、\(\small(8)\,\)式で計算された熱はそのまま内部エネルギー変化となります。

計算例

具体的な数字を使って数値を計算してみましょう。

体積 \(\small 1.00\times 10^{-3}\,\text{m}^{3}\)(\(\small =1\,\text{L}\))の箱の中に \(\small 2.00\,\text{mol}\) の理想気体が入っていて、温度は \(\small 298.15\,\text{K}\) だったとします。理想気体の定積モル熱容量は \(\small 20.8\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) で一定とします。定積条件のもとで理想気体を加熱し、温度が \(\small 398.15\,\text{K}\) になったときの仕事 \(\small W\)、熱 \(\small Q_{V}\)、内部エネルギー変化 \(\small\Delta U\) を計算します。

定積変化なので、仕事 \(\small W\) は \(\small 0\) です。

\(\small\color{blue}{W=0\cdots(9)}\)

\(\small(8)\,\)式を使うと、熱 \(\small Q_{V}\) を計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}Q_{V}&=nC_{V,m}(T_{2}-T_{1})\\&=2.00\,\text{mol}\times20.8\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\qquad\times(398.15-298.15)\text{K}\\&=4160\,\text{J}\cdots(10)\end{align}}\)

そして\(\small\,(5)\,\)式から、内部エネルギー変化 \(\small\Delta U\) も得られます。

\(\small\color{blue}{\Delta U=Q_{V}=4160\,\text{J}\cdots(11)}\)

今度は温度が下がる場合を考えましょう。体積 \(\small 1.00\times 10^{-3}\,\text{m}^{3}\)(\(\small =1\,\text{L}\))の箱の中に \(\small 2.00\,\text{mol}\) の理想気体が入っていて、温度は \(\small 298.15\,\text{K}\) だったとします。理想気体の定積モル熱容量は \(\small 20.8\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) で一定とします。定積条件のもとで理想気体を冷却し、温度が \(\small 248.15\,\text{K}\) になったときの仕事 \(\small W\)、熱 \(\small Q_{V}\)、内部エネルギー変化 \(\small\Delta U\) を計算します。

\(\small(9)\,\)~\(\small(11)\,\)式と同じ計算を行います。

\(\small\color{blue}{W=0\cdots(12)}\)

\(\small\color{blue}{\begin{align}Q_{V}&=nC_{V,m}(T_{2}-T_{1})\\&=2.00\,\text{mol}\times20.8\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\qquad\times(248.15-298.15)\text{K}\\&=-2080\,\text{J}\cdots(13)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{\Delta U=Q_{V}=-2080\,\text{J}\cdots(14)}\)

ここで注意することは\(\small\,(13)\,\)式の計算です。変化量を計算するときはかならず変化した後から変化する前を引きます。そうして得られた計算結果の符号が大事です。

図2の場合、\(\small(10)\,\)式から \(\small Q_{V}\) は正、つまり系が熱を吸収していることがわかります。それに対して図3の場合、\(\small(13)\,\)式から \(\small Q_{V}\) は負、つまり系が熱を放出していることがわかります。これを逆に利用することもできます。系が熱を吸収していることは問題から明らかなのに計算結果が負になっているときは計算を間違えていることに気づくでしょう。

まとめ

今回は、定積変化のときにどのように熱力学量が計算されるのかを見てきました。これだけであれば覚えるのもそれほど難しくありません。しかし状態変化には他にもパターンがあり、それぞれ計算式が違います。これから他の状態変化で得られる式も示していきますので、今回の式と比較してみてください。