熱力学-09|定圧変化

前回は体積を一定にした定積変化における熱力学量変化を計算しました。今回は圧力を一定にした定圧変化における熱力学量変化を計算します。他の条件は前回と同じものとします。

定圧変化の仕事

まずは仕事の計算です。体積変化にともなう仕事 \(\small W\) の基本は\(\small\,(1)\,\)式でした。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=-P\text{d}V\cdots(1)}\)

定圧変化の場合、圧力は変化しませんが体積は変化します。したがって、体積変化にともなう仕事が生じます。

仕事を計算するときは\(\small\,(1)\,\)式を積分します。体積が \(\small V_{1}\) から \(\small V_{2}\) へ変わるので、それらを積分範囲として積分を行います。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle W&=-\int_{V_{1}}^{V_{2}}P\text{d}V=-P\int_{V_{1}}^{V_{2}}\text{d}V\\&=-P(V_{2}-V_{1})\cdots(2)\end{align}}\)

気体が圧縮されて体積が小さくなった場合でも、気体が膨張して体積が大きくなった場合でも、とにかく変化した後の体積 \(\small V_{2}\) から変化する前の体積 \(\small V_{1}\) を引いてください。そうすれば、圧縮されたときの仕事は正、膨張したときの仕事は負で計算されるようになっています。

定圧変化でやりとりされる熱はエンタルピー変化と等しい

\(\small(2)\,\)式から、定圧変化の仕事の式がわかりました。熱力学第一法則にこの関係を代入すると\(\small\,(3)\,\)式が成り立ちます。

\(\small\color{blue}{\Delta U=Q_{p}+W= Q_{p}-P(V_{2}-V_{1})\cdots(3)}\)

ここで、\(\small Q_{p}\) は定圧条件でやりとりされる熱を表します。

さらに\(\small\,(3)\,\)式を整理すると、\(\small Q_{p}\) について以下のとおりまとめられます。

\(\small\color{blue}{\Delta U=U_{2}-U_{1}=Q_{p}-PV_{2}+PV_{1}}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow Q_{p}=(U_{2}+PV_{2})-(U_{1}+PV_{1})\cdots(4)}\)

前回、定積条件でやりとりされる熱 \(\small Q_{V}\) は内部エネルギー \(\small U\) の変化と等しいことを学びました。同じ表現を使うのであれば、定圧条件でやりとりされる熱 \(\small Q_{p}\) は \(\small U+PV\) の変化と等しいと言えそうです。ただ毎回 \(\small U+PV\) の変化と説明するのも大変なので、新しい量としてエンタルピー \(\small H\) を導入します。

\(\small\color{blue}{H=U+PV\cdots(5)}\)

エンタルピーを導入することによって、定積条件で与えられていた\(\small\,(6)\,\)式と同じように、\(\small(7)\,\)式が得られます。

\(\small\color{blue}{Q_{V}=U_{2}-U_{1}=\Delta U\cdots(6)}\)
\(\small\color{blue}{Q_{p}=H_{2}-H_{1}=\Delta H\cdots(7)}\)

ところで、ビーカーに水を入れて加熱する、溶媒に溶質を溶かす、A と B を反応させて C を合成する、など一般的な実験操作は大気圧という一定の圧力の下で行われるので、定圧変化と考えます。したがって、一般的な実験操作で出入りする熱はエンタルピーであり、内部エネルギーよりも広く使われると考えられます。溶解熱や反応熱を溶解エンタルピー、反応エンタルピーと呼ぶことも多いです。

熱容量を使って熱を計算する

定積変化と同様に考えると、熱容量の定義から\(\small\,(8)\,\)式が得られます。

\(\small\color{blue}{\text{d}Q_{p}=C_{p}\text{d}T=nC_{p,m}\text{d}T\cdots(8)}\)

ここで、\(\small C_{p}\) は定圧条件での熱容量を表していて、定圧熱容量と言います。また、\(\small C_{p,m}\) は定圧条件での \(\small 1\,\text{mol}\) あたりの熱容量を表していて、定圧モル熱容量と言います。計算するときにデータとして与えられるのはモル熱容量が多いので、以下ではモル熱容量を使って式を導きます。

定圧変化で系の温度が \(\small T_{1}\) から \(\small T_{2}\) まで変化したときに系と外界でやりとりされた熱 \(\small Q_{p}\) は、\(\small(8)\,\)式を積分することによって計算できます。

\(\small\color{blue}{\displaystyle Q_{p}=\int_{T_{1}}^{T_{2}}nC_{p,m}\text{d}T\cdots(9)}\)

いまは閉鎖系を考えているので、物質量 \(\small n\) は変化せず一定です。また、定圧モル熱容量 \(\small C_{p,m}\) が温度によらず一定であると仮定すると、\(\small(9)\,\)式の積分をさらに進められます。

\(\small\color{blue}{\displaystyle Q_{p}=nC_{p,m}\int_{T_{1}}^{T_{2}}\text{d}T=nC_{p,m}(T_{2}-T_{1})\cdots(10)}\)

したがって、状態変化前後の温度がわかれば、熱を計算できます。さらに\(\small\,(7)\,\)式から、\(\small(10)\,\)式で計算された熱はそのままエンタルピー変化となります。

計算例

具体的な数字を使って数値を計算してみましょう。

体積 \(\small 1.00\times 10^{-3}\,\text{m}^{3}\)(\(\small =1\,\text{L}\))の箱の中に \(\small 2.00\,\text{mol}\) の理想気体が入っていて、温度は \(\small 298.15\,\text{K}\) だったとします。このときの圧力は理想気体の状態方程式から \(\small 4.96\,\text{MPa}\) です。理想気体の定圧モル熱容量は \(\small 29.1\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) で一定とします。定圧条件のもとで理想気体を加熱し、温度が \(\small 398.15\,\text{K}\) になったときの仕事 \(\small W\)、熱 \(\small Q_{p}\)、エンタルピー変化 \(\small\Delta H\) を計算します。

定圧変化の仕事 \(\small W\) は\(\small\,(2)\,\)式から計算できますが、そのためには変化後の体積 \(\small V_{2}\) が必要です。そこで、理想気体の状態方程式を使って \(\small V_{2}\) を求めます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle V_{2}&=\frac{nRT_{2}}{P}\\&=\frac{2.00\,\text{mol}\times 8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times 398.15\,\text{K}}{4.96\times10^{6}\,\text{Pa}}\\&=1.33\times10^{-3}\,\text{m}^{3}\cdots(11)\end{align}}\)

求められた \(\small V_{2}\) と\(\small\,(2)\,\)式を使って仕事 \(\small W\) を計算します。

\(\small\color{blue}{\begin{align}W&=-P(V_{2}-V_{1})\\&=-4.96\times10^6\,\text{Pa}\times(1.33-1.00)\times10^{-3}\,\text{m}^3\\&=-1636.8\,\text{Pa}\,\text{m}^3=-1636.8\,\text{J}\cdots(12)\end{align}}\)

気体は膨張しているので外界に対して仕事をしている、すなわち仕事は負の値を取ります。

\(\small(10)\,\)式を使うと、熱 \(\small Q_{p}\) を計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}Q_{p}&=nC_{p,m}(T_{2}-T_{1})\\&=2.00\,\text{mol}\times29.1\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\qquad\times(398.15-298.15)\text{K}\\&=5820\,\text{J}\cdots(13)\end{align}}\)

そして\(\small\,(7)\,\)式から、エンタルピー変化 \(\small\Delta H\) も得られます。

\(\small\color{blue}{\Delta H=Q_{p}=5820\,\text{J}\cdots(14)}\)

今度は温度が下がる場合を考えましょう。体積 \(\small 1.00\times 10^{-3}\,\text{m}^{3}\)(\(\small =1\,\text{L}\))の箱の中に \(\small 2.00\,\text{mol}\) の理想気体が入っていて、温度は \(\small 298.15\,\text{K}\) だったとします。理想気体の定圧モル熱容量は \(\small 29.1\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) で一定とします。定圧条件のもとで理想気体を冷却し、温度が \(\small 248.15\,\text{K}\) になったときの仕事 \(\small W\)、熱 \(\small Q_{p}\)、エンタルピー変化 \(\small\Delta H\) を計算します。

\(\small(11)\,\)~\(\small(14)\,\)式と同じ計算を行います。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle V_{2}&=\frac{nRT_{2}}{P}\\&=\frac{2.00\,\text{mol}\times 8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times 248.15\,\text{K}}{4.96\times10^{6}\,\text{Pa}}\\&=0.832\times10^{-3}\,\text{m}^{3}\cdots(15)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{\begin{align}W&=-P(V_{2}-V_{1})\\&=-4.96\times10^6\,\text{Pa}\times(0.832-1.00)\times10^{-3}\,\text{m}^3\\&=833.28\,\text{Pa}\,\text{m}^3=833.28\,\text{J}\cdots(16)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{\begin{align}Q_{p}&=nC_{p,m}(T_{2}-T_{1})\\&=2.00\,\text{mol}\times29.1\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\qquad\times(248.15-298.15)\text{K}\\&=-2910\,\text{J}\cdots(17)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{\Delta H=Q_{p}=-2910\,\text{J}\cdots(18)}\)

今度は気体が圧縮されて体積が減少しているので外界から仕事をされている、すなわち仕事は正の値を取ります。また温度が減少していることから、この状態変化にともなって系から熱が放出されている、すなわち熱量変化は負の値を取ります。

まとめ

今回は、定圧変化のときにどのように熱力学量が計算されるのかを見てきました。定積変化のときと式が変わりましたし、エンタルピーという新しい熱力学量が出てきました。単に式を覚えるだけでなく、何に基づいて式が導出されているかを意識すると良いでしょう。

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