熱力学-12|定圧変化と等温変化の違い

ここまで、定積変化、定圧変化、等温変化を考えてきました。ここで、定圧変化と等温変化を比較してみます。まぎらわしいところもあるので、そこも含めておさらいしてみましょう。

考える状態変化

図1に、今から考える状態変化の最初の状態と最後の状態を示します。

大気圧 \(\small 101.3\,\text{kPa}\) の下で \(\small 1.00\,\text{mol}\) の理想気体が入ったピストンを準備します。温度は \(\small 273.15\,\text{K}\) で一定とします。この条件でピストンが動かない状態を最後の状態とします。このとき理想気体の圧力は大気圧と同じ \(\small 101.3\,\text{kPa}\) であることから、理想気体の状態方程式を使うとその体積は \(\small 22.4\,\text{L}\) と計算されます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle V&=\frac{1.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times273.15\,\text{K}}{101.3\times10^{3}\,\text{Pa}} \\&=22.4\,\text{L}\cdots(1)\end{align}}\)

この理想気体の体積が \(\small 11.2\,\text{L}\) になるまでピストンに重りを載せます。これが最初の状態であり、このときの理想気体の圧力はボイルの法則から \(\small 202.6\,\text{kPa}\) と求められます。

\(\small\color{blue}{101.3\,\text{kPa}\times22.4\,\text{L}=P_2\times11.2\,\text{L}}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow P_2=202.6\,\text{kPa}\cdots(2)}\)

この状態変化を進めるときに、重りの取り除き方を2通り考えます。1つは一気に取り除いてしまう方法、もう1つは少しずつ取り除いていく方法です。どちらも温度一定の変化ですが、求められる仕事は変わってくるので計算してみましょう。

重りを一気に取り除く場合

図1の最初の状態から、ピストンの上に乗っている重りを一気に取り除きます。取り除いた瞬間は、理想気体の圧力は \(\small 202.6\,\text{kPa}\)、外からピストンを押す圧力は大気圧の \(\small 101.3\,\text{kPa}\) です。理想気体の圧力のほうが高いので、理想気体がピストンを上に押し上げます。

どこまで押し上げるかというと、理想気体の圧力が大気圧と等しくなるまでです。ピストンを上に押し上げて理想気体の体積が増加すると圧力は減少します。そして圧力が大気圧まで減少すると、それ以上ピストンを上に押し上げることはできないため、そこでピストンは止まります。

このとき理想気体が外界に対してした仕事を計算します。仕事の計算の基本は\(\small\,(3)\,\)式です。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=-P\text{d}V\cdots(3)}\)

体積とともに圧力がどのように変化するかがわかれば、あとは\(\small\,(3)\,\)式を積分することによって仕事を計算できます。

ここで注意することは、\(\small(3)\,\)式の圧力は外圧であることです。今の場合、大気圧より大きい圧力で理想気体がピストンを押していますが、ここでは外圧に逆らって理想気体が仕事をしていると考えます。そういう意味では、理想気体の圧力がどのように変化しても関係ありません。しいて言えば、ピストンを押し上げるために外圧よりも高い圧力であることは必要です。

ここでの外圧は、重りを取り除いた瞬間から最後の状態まで大気圧です。つまり、圧力一定の条件で状態変化が起こっているので、これは定圧変化です。

したがって、この状態変化の仕事は次のとおり計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}W&=-P(V_2-V_1)\\&=-101.3\times10^3\,\text{Pa}\times(22.4-11.2)\times10^{-3}\,\text{m}^3\\&=-1134\,\text{J}\cdots(4)\end{align}}\)

重りを少しずつ取り除く場合

今度は図1の重りを少しずつ取り除いていく変化を考えます。

最初の状態からほんの少し重りを取り除くと、外圧は減少して理想気体のほうが圧力は大きくなるので、ピストンは少し上昇します。さらにほんの少しおもりを取り除くとまた外圧は減少し、再びピストンは少し上昇します。これを繰り返して最後の状態まで変化させます。

これはいわゆる準静的過程です。この場合、外圧は常に理想気体の圧力と等しい圧力で変化します。したがって、仕事の式に理想気体の圧力を代入することによって仕事が計算できます。その式は前回示したとおりで、それを使って計算すると次の結果が得られます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle W&=-nRT\text{ln}\frac{V_2}{V_1}\\&=-1.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\qquad\times273.15\,\text{K}\times\text{ln}\frac{22.4\,\text{L}}{11.2\,\text{L}}\\&=-1574\,\text{J}\cdots(5)\end{align}}\)

このように同じ等温過程であっても、変化の方法によって得られる仕事は違ってきます。

グラフで見た違い

温度が一定の場合、理想気体はボイルの法則に従います。上の例の場合、理想気体の圧力と体積の関係は図2で表されます。

この図を使って、重りを一気に取り除く場合と少しずつ取り除く場合のグラフの違いを見ておきましょう。

\(\small(4)\,\)式からわかるように、重りを一気に取り除く場合は \(\small 101.3\,\text{kPa}\) の外圧一定の条件で体積が変化するので、この場合の仕事は図3で表されます。


また、少しずつ取り除く場合は外圧が理想気体の圧力に合わせて変化するので、この場合の仕事は図4で表されます。


このように、グラフで見ると2つの変化の違いがわかりやすいです。

定圧変化で温度が変わる場合

重りを一気に取り除く場合も少しずつ取り除く場合も、ここでは温度を一定に保つ条件で変化させているので等温変化です。しかし、外圧の変化が異なるために、仕事を求める計算式は違います。

重りを一気に取り除く場合は一定の外圧(ここでは大気圧)に逆らって理想気体は仕事をするので定圧変化です。また、状態変化の仕方からわかるように、準静的過程ではなく不可逆過程です。

一方、重りを少しずつ取り除く場合は準静的過程です。温度一定の条件の下で、状態変化が準静的過程である場合に初めて\(\small\,(5)\,\)式を使って仕事を計算できます。

したがって、等温変化だからただちに\(\small\,(5)\,\)式を使う、とはならないことに注意が必要です。そういう意味では、暗黙のうちに準静的過程を想定していた前回の等温変化の説明は不十分でした。

また、準静的過程であっても等温変化でなければ、\(\small(5)\,\)式を使うことはできません。たとえば次のような状況です。

図1の左図を最初の状態とします。ここから、温度一定で理想気体を膨張させるのではなく、理想気体を加熱して膨張させることを考えます。

理想気体をゆっくり加熱して温度が少し上昇すると理想気体の圧力は \(\small 202.6\,\text{kPa}\) より高くなるので、理想気体がピストンを押し上げます。そうすると体積が増加するので、理想気体の圧力は減少します。外圧は \(\small 202.6\,\text{kPa}\) で変わらないので、\(\small 202.6\,\text{kPa}\) より高くなった理想気体の圧力が再び \(\small 202.6\,\text{kPa}\) まで減少するとピストンの上昇は終わります。これを繰り返していくと、加熱を続けるかぎり理想気体の体積が増えます。

これは準静的過程の考え方ですが、外圧は常に \(\small 202.6\,\text{kPa}\) で一定であり、それに逆らって理想気体が仕事をしているので定圧変化です。したがって、仕事の計算には\(\small\,(4)\,\)式を使います。これは以前、定圧変化を説明するときに示した例と同じ考え方です。

このときの仕事をグラフ上で表したのが図5です。こうして見ると、図3、4と違う点が明らかですし、そもそも温度が変化するとボイルの法則に沿った計算、つまり\(\small\,(5)\,\)式は使えないことがよくわかります。

まとめ

定圧変化と等温変化の違いをまとめてきました。まとめながら、自分でも勘違いしていた部分が見えてきました。やはり熱力学はただ単に計算式を覚えるだけではなく、どのような状態変化を扱っているのか、よく考える必要があります。

次回はもう1つの変化である断熱変化を取り扱います。

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