熱力学

熱力学-11|等温変化

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定積変化、定圧変化と扱ってきましたので、次は等温変化を考えます。温度一定の条件で状態変化が起きたとき、仕事や熱、内部エネルギー変化、エンタルピー変化がどうなるか考えましょう。

等温変化の仕事

まずは仕事の計算です。体積変化にともなう仕事 \(\small W\) の基本は\(\small\,(1)\,\)式でした。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=-P\text{d}V\cdots(1)}\)

定積変化、定圧変化、等温変化、どの状態変化であっても基本の\(\small\,(1)\,\)式は同じです。ここから、各状態変化の条件をあてはめることによって、仕事の計算式が変わってくるわけです。

等温変化の場合、ここでは理想気体を考えるとして状態方程式を使って式を変形し、積分を行うことで仕事の式が得られます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle W&=-\int_{V_1}^{V_2}P\text{d}V=-\int_{V_1}^{V_2}\frac{nRT}{V}\text{d}V\\&=-nRT\int_{V_1}^{V_2}\frac{1}{V}\text{d}V=-nRT[\text{ln}V]_{V_1}^{V_2}\\&=-nRT(\text{ln}V_2-\text{ln}V_1)=-nRT\,\text{ln}\frac{V_2}{V_1}\cdots(2)\end{align}}\)

\(\small(2)\,\)式を求める過程で出てきた \(\small 1/x\) の積分は物理化学ではよく出てくるので、すぐにできるようになっておきましょう。

\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{\text{d}\,\text{ln}x}{\text{d}x}=\frac{1}{x}}\)

\(\small\color{blue}{\displaystyle\Rightarrow\int\text{d}\,\text{ln}x=\int\frac{1}{x}\text{d}x}\)

\(\small\color{blue}{\displaystyle\Rightarrow\int\frac{1}{x}\text{d}x=\text{ln}x+C\cdots(3)}\)

また、\(\small\text{ln}\) は底が \(\small\text{e}\) の対数(\(\small\text{ln}=\text{log}_\text{e}\))で自然対数を表しています。これに対し、底が \(\small 10\) の対数(\(\small\text{log}_{10}\))は常用対数と言います。

物理化学に限らず化学では自然対数を使うことが一般的です。唯一 \(\small\text{pH}\) の計算で常用対数を使うことは皆さんもよくご存知のとおりです。

等温変化でやりとりされる熱と仕事の大きさは同じ

次に、等温変化が起きたときの熱の出入りを考えます。

温度が変わっていないのだから熱は出たり入ったりしていないのでは?と直感的に思いたくなります。しかしそうではありません。何もしなければ状態変化とともに温度は変わるので、等温変化では温度変化が起こらないように熱の出入りが生じています。

さて、理想気体で等温変化を考える場合、大事なポイントがあります。それは、内部エネルギー変化 \(\small\Delta U\) が \(\small 0\) となることです。

このことは前に説明しているので、そちらを参考にしてください。
熱力学-05|内部エネルギー

簡単に言うと、理想気体であれば分子間相互作用は生じないので分子間距離の変化によるエネルギー変化は \(\small 0\) であり、また等温変化であれば分子の運動エネルギーも変化しないので、これらが原因で生じる内部エネルギーも変化しません。

そうすると、熱力学第一法則から次の関係を得ることができます。

\(\small\color{blue}{\Delta U=Q+W=0}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow Q=-W\cdots(4)}\)

したがって、等温変化にともなって系に出入りする熱 \(\small Q\) は仕事 \(\small W\) にマイナスを付けたものになることがわかります。

\(\small\color{blue}{\displaystyle Q=-W=nRT\,\text{ln}\frac{V_2}{V_1}\cdots(5)}\)

このことを文章で表すと、系が吸収した熱の分だけ仕事をする、あるいは系が仕事をされた分だけ熱を放出する、と言えます。

等温変化にともなう内部エネルギー変化およびエンタルピー変化は0

定積変化や定圧変化を見てきた中で、内部エネルギー変化 \(\small\Delta U\) やエンタルピー変化 \(\small\Delta H\) が出てきました。定積変化にともなう熱は内部エネルギー変化と等しく、定圧変化にともなう熱はエンタルピー変化と等しいという関係がありました。

では等温変化の場合、内部エネルギー変化やエンタルピー変化はどうなるでしょうか。

まず、内部エネルギー変化は上で説明したように、理想気体であれば等温変化の場合 \(\small 0\) となります。

\(\small\color{blue}{\Delta U=0\cdots(6)}\)

そしてエンタルピー変化は、エンタルピーの定義式を使って考えます。

\(\small\color{blue}{H=U+PV}\)
\(\small\color{blue}{\begin{align}\Rightarrow\Delta H&=\Delta U+\Delta(PV)=\Delta U+\Delta(nRT)\\&=\Delta U+nR\Delta T=0\cdots(7)\end{align}}\)

したがって等温変化の場合、内部エネルギー変化もエンタルピー変化も \(\small 0\) となることがわかります。

計算例

具体的な数字を使って数値を計算してみましょう。

体積 \(\small 1.00\times10^{-3}\,\text{m}^3\)(\(\small =1\,\text{L}\))の箱の中に \(\small 2.00\,\text{mol}\) の理想気体が入っていて、温度は \(\small 298.15\,\text{K}\) だったとします。このときの圧力は理想気体の状態方程式から \(\small 4.96\,\text{MPa}\) です。等温条件のもとで理想気体を膨張させ、体積が \(\small 2.00\times10^{-3}\,\text{m}^3\) になったときの仕事 \(\small W\) および熱 \(\small Q\) を計算します。ちなみに、内部エネルギー変化およびエンタルピー変化は \(\small 0\) なので、計算はしません。

等温変化の仕事 \(\small W\) は\(\small\,(2)\,\)式から計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle W&=-nRT\,\text{ln}\frac{V_2}{V_1}\\&=-2.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\times298.15\,\text{K}\times\text{ln}\frac{2.00\times10^{-3}\,\text{m}^3}{1.00\times10^{-3}\,\text{m}^3}\\&=-3436\,\text{J}\cdots(8)\end{align}}\)

そして熱 \(\small Q\) は\(\small\,(4)\,\)式あるいは\(\small\,(5)\,\)式から計算できます。

\(\small\color{blue}{Q=-W=3436\,\text{J}\cdots(9)}\)

今度は理想気体が圧縮される場合を考えましょう。体積 \(\small 1.00\times10^{-3}\,\text{m}^3\)(\(\small =1\,\text{L}\))の箱の中に \(\small 2.00\,\text{mol}\) の理想気体が入っていて、温度は \(\small 298.15\,\text{K}\) だったとします。等温条件のもとで理想気体を圧縮し、体積が \(\small 5.00\times10^{-4}\,\text{m}^3\) になったときの仕事 \(\small W\) および熱 \(\small Q\) を計算します。

\(\small(8)\)、\(\small(9)\,\)式と同じ計算を行います。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle W&=-nRT\text{ln}\frac{V_2}{V_1}\\&=-2.00\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\\&\qquad\qquad\times298.15\,\text{K}\times\text{ln}\frac{5.00\times10^{-4}\,\text{m}^3}{1.00\times10^{-3}\,\text{m}^3}\\&=3436\,\text{J}\cdots(10)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{Q=-W=-3436\,\text{J}\cdots(11)}\)

\(\small(8)\,\)式と\(\small\,(10)\,\)式から、理想気体が膨張する場合は系が外界に対して仕事をするので負の値に、理想気体が圧縮される場合は系が外界から仕事をされるので正の値になることが確認できます。そして\(\small\,(9)\,\)式と\(\small\,(11)\,\)式から、系が外界に対して仕事をするとき系は外界から熱を吸収し、系が外界から仕事をされるとき系は外界に熱を放出することがわかります。

ちなみに等温変化の場合はボイルの法則が成り立つので、圧力を使って\(\small\,(2)\,\)式と\(\small\,(5)\,\)式を書き表すこともできます。

\(\small\color{blue}{\displaystyle P_1 V_1= P_2 V_2\;\Rightarrow\;\frac{V_2}{V_1}=\frac{P_1}{P_2}}\)

\(\small\color{blue}{\displaystyle W=-nRT\,\text{ln}\frac{V_2}{V_1}=-nRT\,\text{ln}\frac{P_1}{P_2}\cdots(12)}\)

\(\small\color{blue}{\displaystyle Q=-W=nRT\,\text{ln}\frac{P_1}{P_2}\cdots(13)}\)

上で見た例は体積が与えられていたので、\(\small(2)\,\)式と\(\small\,(5)\,\)式を使って仕事や熱を計算しました。しかし問題によっては、体積ではなく圧力が与えられていることもあります。その場合、状態方程式やボイルの法則を使って体積を求めたあとで\(\small\,(2)\,\)式と\(\small\,(5)\,\)式を使うことができますが、体積を計算しなくても、\(\small(12)\,\)式と\(\small\,(13)\,\)式を使えば圧力をそのまま代入して計算できます。よくよく考えてみると、結局は同じことをしています。

まとめ

定積変化、定圧変化に続いて等温変化を見てきました。理想気体の場合、内部エネルギー変化やエンタルピー変化は \(\small 0\) なので、仕事と熱の式だけわかっておけば何とかなります。もっというと、仕事と熱はマイナスを付けるかどうかだけなので、仕事の式だけわかっておけば大丈夫です。

次回は、定圧変化と等温変化について、それらの違いを中心にもう少し考えてみましょう。