熱力学

熱力学-14|ボイルの法則とポアソンの法則

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断熱変化の説明でポアソンの法則が出てきました。これは断熱条件の下で体積の変化にともなって圧力がどのように変化するかを与える関係式でした。

一方で、圧力と体積の関係といえばボイルの法則が有名です。等温条件の下で成り立つのがボイルの法則でした。

それでは、これら2つの法則がどのように違うのか見ていきましょう。

ボイルの法則とポアソンの法則が描くグラフ

圧力 \(\small P\) と体積 \(\small V\) を使って、ボイルの法則を\(\small\,(1)\,\)式に、ポアソンの法則を\(\small\,(2)\,\)式に示します。

\(\small\color{blue}{PV=C_1\cdots(1)}\)
\(\small\color{blue}{PV^{\gamma}=C_2\cdots(2)}\)

ここで、\(\small C_1\)、\(\small C_2\) はそれぞれ定数を意味し、\(\small\gamma\) は定圧熱容量と定積熱容量の比を表しています。\(\small(1)\,\)式、\(\small(2)\,\)式から、ボイルの法則は圧力と体積の積が、ポアソンの法則は圧力と体積の \(\small\gamma\) 乗の積が常に一定であることがわかります。

まずは実際にグラフを描いてみましょう。

\(\small 298.15\,\text{K}\) で体積 \(\small 1\,\text{m}^3\) の理想気体の圧力が \(\small 202.6\,\text{kPa}\) だったとします(理想気体の状態方程式から物質量は \(\small 81.73\,\text{mol}\))。この状態から、ボイルの法則とポアソンの法則にしたがって理想気体を膨張させたときの圧力-体積曲線を描きます。ポアソンの法則の \(\small\gamma\) は \(\small 5/3\) としておきます。

図1から、ボイルの法則とポアソンの法則が描くグラフは異なること、そしてポアソンの法則のほうが圧力は大きく減少していることがわかります。同じ体積だけ膨張させたときに、等温変化より断熱変化のほうが圧力は大きく減少しています。

ボイルの法則とポアソンの法則の違いは \(\small\gamma\) があるかどうか。この \(\small\gamma\) の数値によって断熱変化の圧力-体積曲線は変わりますが、\(\small\gamma\) は少なくとも \(\small 1\) より大きい数値を取ります。したがって、同じ状態から膨張させたときは等温変化よりも断熱変化のほうが圧力-体積曲線は下に位置します。

断熱変化では温度が変わることに注意

ボイルの法則でもポアソンの法則でも、各状態で理想気体の状態方程式は成り立ちます。

そこに少し違和感がないでしょうか。

理想気体の状態方程式は1つなので、そこから決まる状態は1つのはずです。それなのに、同じ状態からスタートして図1のように2つの曲線ができるのは少し不思議な感じがします。等温変化と断熱変化の違いと言ってしまえばそれまでですが、それにしても違和感が残ります。

教科書でもよく見る図1のグラフについて、注意することがあります。

圧力-体積曲線は主にボイルの法則を表すときに使われるので、その曲線は暗黙のうちに等温条件下であると考えてしまいます。その考えで圧力-体積曲線を見ると、同じ状態からスタートして2つ曲線ができるのはおかしな話です。

ボイルの法則は等温条件下で成り立つので、ボイルの法則の1つの曲線上ではどこでも温度一定です。一方で、図1では明確に示されていませんが、ポアソンの法則の1つの曲線上では体積とともに圧力が変化しているだけではなく、温度も変化しています。圧力と体積の軸だけではなく、図2のように温度の軸も関わってきます。

図2をある温度における圧力-体積平面に投影したものが図1です。このように、ポアソンの法則の曲線上では温度も変わることによって、理想気体の状態方程式が成り立ちます。図1では同じ圧力-体積曲線に見えますが、図2のように少し意味合いが異なっていることに注意が必要です。

計算例

あらためて計算をして、等温変化と断熱変化の違いを確認しておきましょう。

\(\small 1\,\text{m}^3\) のピストン中に \(\small 81.73\,\text{mol}\) の理想気体が入っている系を考えます。温度 \(\small 298.15\,\text{K}\) で圧力は \(\small 202.6\,\text{kPa}\) を示します。そして、等温変化と断熱変化でそれぞれ体積を \(\small 2\) 倍にしたときの圧力と温度を計算します。


等温変化の場合、温度は変わらないので、体積を \(\small 2\) 倍にしても \(\small 298.15\,\text{K}\) のままです。そしてボイルの法則が成り立つので、体積を \(\small 2\) 倍にすると圧力は \(\small 1/2\)、すなわち \(\small 101.3\,\text{kPa}\) となります。

\(\small\color{blue}{P_1 V_1=P_2 V_2}\)
\(\small\color{blue}{\begin{align}\Rightarrow\displaystyle P_2&=P_1\times\frac{V_1}{V_2}\\&=202.6\,\text{kPa}\times\frac{1\,\text{m}^3}{2\,\text{m}^3} \\&=101.3\,\text{kPa}\cdots(3)\end{align}}\)

断熱変化の場合、体積を \(\small 2\) 倍にすると圧力と温度はともに変化します。\(\small\gamma\) は \(\small 5/3\) として、ポアソンの法則から圧力と温度を計算します。

\(\small\color{blue}{P_1 V_1^{\gamma}=P_2 V_2^{\gamma}}\)
\(\small\color{blue}{\begin{align}\Rightarrow\displaystyle P_2&=P_1\times\left(\frac{V_1}{V_2}\right)^{\gamma}\\&=202.6\,\text{kPa}\times\left(\frac{1\,\text{m}^3}{2\,\text{m}^3}\right)^{5/3}\\&=63.8\,\text{kPa}\cdots(4)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{T_1 V_1^{\gamma-1}=T_2 V_2^{\gamma-1}}\)
\(\small\color{blue}{\begin{align}\Rightarrow\displaystyle T_2&=T_1\times\left(\frac{V_1}{V_2}\right)^{\gamma-1}\\&=298.15\,\text{K}\times\left(\frac{1\,\text{m}^3}{2\,\text{m}^3}\right)^{(5/3)-1}\\&=187.82\,\text{K}\cdots(5)\end{align}}\)


等温変化と断熱変化のそれぞれについて、理想気体の状態方程式を使って体積を \(\small 2\) 倍にしたあとの圧力を求めると、\(\small(3)\,\)式および\(\small\,(4)\,\)式で求められた圧力と等しくなることが確認できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle P&=\frac{nRT}{V}\\&=\frac{81.73\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times298.15\,\text{K}}{2\,\text{m}^3}\\&=101.3\,\text{kPa}\cdots(6)\end{align}}\)

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle P&=\frac{nRT}{V}\\&=\frac{81.73\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times187.82\,\text{K}}{2\,\text{m}^3}\\&=63.8\,\text{kPa}\cdots(7)\end{align}}\)

まとめ

今回は等温変化と断熱変化の違いを見てきました。

細かいところですが、圧力-体積曲線の違いを理解しておくことが重要です。そして、等温変化にはボイルの法則、断熱変化にはポアソンの法則を使って、状態変化にともなう温度や圧力、体積を計算できるようになりましょう。