熱力学といえば、まずは熱力学第1法則として知られているエネルギー保存則です。
この法則を見ていく前に、物理で学ぶエネルギー保存則を復習しておきましょう。
物理化学では物理の考え方を化学に応用している面があるので、物理化学を理解するときに物理の基本を振り返っておくことは役立ちます。
運動エネルギー
物理のエネルギー保存則で出てくる、物体が持つエネルギーは2つです。
1つは物体が運動することによるエネルギーで、これを運動エネルギーと言います。
質量 \(\small m\) の物体が速度 \(\small v\) で運動しているとき、その物体の運動エネルギー \(\small E_k\) は (1) 式で与えられます。
\(\small\color{blue}{E_k=\displaystyle\frac{1}{2}mv^{2}\cdots(1)}\)
位置エネルギー
もう1つは位置エネルギーです。
位置エネルギーは物体の位置によって決まるエネルギーで、ポテンシャルエネルギーとも呼ばれます。
よく知られているのは、(2) 式で表わされる、地面から高さ \(\small h\) の位置にある質量 \(\small m\) の物体がもつ位置エネルギー \(\small E_p\) でしょう。
\(\small\color{blue}{E_p=mgh\cdots(2)}\)
ここで \(\small g\) は重力加速度です。
位置エネルギーについて2つ補足をしておきます。
1つは、位置エネルギーを表わすときには基準が必要ということです。
(2) 式はさらっと書かれていますが、これは地面を基準にしたときの位置エネルギーです。
わかりやすいので普通は地面を基準に取りますが、地面である必要はありません。
図1に示すように、高さ \(\small h\) を基準にしてもいいですし、高さ \(\small h/2\) を基準に取ることもできます。
高さ \(\small h\) での位置エネルギーがそれぞれ違っているように見えますが、地面と高さ \(\small h\) での位置エネルギーの差はどれも同じ \(\small mgh\) です。
この「差」という考え方は熱力学の計算でも基本となるので、意識しておいてください。
もう1つの補足は式の成り立ちについてです。
以下に示すように、(2) 式は仕事の計算から導かれます。
重力がはたらいている場で質量 \(\small m\) の物体が受ける力 \(\small F\) は質量と加速度の積で決まります。
\(\small\color{blue}{F=mg\cdots(3)}\)
そして仕事 \(\small W\) は、物体を動かす力 \(\small F\) と動かした距離 \(\small s\) の積で決まります。
\(\small\color{blue}{W=Fs\cdots(4)}\)
ここで、地面から \(\small h\) の高さまで重力による力に逆らって物体を持ち上げたと考えると、その仕事は (5) 式で書けます。
\(\small\color{blue}{W=Fs=mgh\cdots(5)}\)
したがって、もし手で物体を持ち上げたのであれば、手が物体に \(\small mgh\) の仕事をした結果、高さ \(\small h\) まで持ち上げることができたと考えます。
物体は手によってなされた仕事の分だけエネルギーを蓄えたと見ることもできます。
このように位置エネルギーは奥が深いので、その考え方をしっかりと理解しておきたいところです。
エネルギー保存則
物理で学ぶエネルギー保存則は運動エネルギーと位置エネルギーの和 \(\small E_{total}\) が一定である、というものです。
\(\small\color{blue}{E_{total}=E_k+E_p=\text{Const.}\cdots(6)}\)
たとえば、地面から高さ \(\small h\) にある質量 \(\small m\) の物体を落下させることを考えます。
高さ \(\small h\) にあるときは物体は動いていないので、運動エネルギー \(\small E_k\) は \(\small 0\) です。
そして地面を基準に取れば、位置エネルギー \(\small E_p\) は \(\small mgh\) です。
\(\small\color{blue}{E_{total}=E_k+E_p=mgh\cdots(7)}\)
物体を落下させて地面に到達したときの速度を \(\small v\) とすると、そこでの運動エネルギー \(\small E_k\) は \(\small mv^2/2\) です。
一方、地面を基準に取っているので、位置エネルギー \(\small E_p\) は \(\small 0\) です。
\(\small\color{blue}{E_{total}=E_k+E_p=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\cdots(8)}\)
ここで、(7) 式と (8) 式では \(\small E_{total}\) を与える式が異なりますが、これが同じになることを計算してみましょう。
重力加速度 \(\small g\) の下で物体が距離 \(\small h\) を落下するのにかかる時間 \(\small t\) は (9) 式で計算できます。
\(\small\color{blue}{h=\displaystyle\frac{1}{2}gt^2}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow t=\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\cdots(9)}\)
そうすると、地面に到達したときの速度 \(\small v\) は (10) 式となります。
\(\small\color{blue}{v=gt=g\cdot\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}=\sqrt{2gh}\cdots(10)}\)
↓このあたりの計算はこちらを参考にしてください。
平成27年度センター試験【物理基礎】第1問 問3|加速度
(10) 式を使って運動エネルギー \(\small E_k\) を計算します。
\(\small\color{blue}{E_k=\displaystyle\frac{1}{2}mv^{2}=\displaystyle\frac{1}{2}m\cdot2gh=mgh\cdots(11)}\)
たしかに地面での運動エネルギーが \(\small mgh\) で表わされます。
では物体が落下して、地面から \(\small h/2\) の高さを通過するときはどうでしょうか。
距離 \(\small h/2\) を落下するのにかかる時間 \(\small t\) は (12) 式であり、この位置での速度 \(\small v\) は (13) 式で与えられます。
\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{h}{2}=\displaystyle\frac{1}{2}gt^2}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow t=\sqrt{\displaystyle\frac{h}{g}}\cdots(12)}\)
\(\small\color{blue}{v=gt=g\cdot\sqrt{\displaystyle\frac{h}{g}}=\sqrt{gh}\cdots(13)}\)
したがって、この位置での運動エネルギー \(\small E_k\) は (14) 式となります。
\(\small\color{blue}{E_k=\displaystyle\frac{1}{2}mv^{2}=\displaystyle\frac{1}{2}m\cdot gh=\displaystyle\frac{1}{2}mgh\cdots(14)}\)
また、この位置での位置エネルギー \(\small E_p\) は (15) 式です。
\(\small\color{blue}{E_p=mg\cdot\displaystyle\frac{1}{2}h=\displaystyle\frac{1}{2}mgh\cdots(15)}\)
そうすると、やはり運動エネルギーと位置エネルギーの和 \(\small E_{total}\) は \(\small mgh\) となります。
\(\small\color{blue}{E_{total}=E_k+E_p=\displaystyle\frac{1}{2}mgh+\displaystyle\frac{1}{2}mgh=mgh\cdots(16)}\)
他の高さでも同じことが言えます。
このことから、高さによって運動エネルギーと位置エネルギーはそれぞれ変化しますが、その和は常に一定(ここでは \(\small mgh\))であることがわかります。
これがエネルギー保存則と言われる所以です。
また熱力学におけるエネルギー保存則と区別するために、力学的エネルギー保存則と言うこともあります。
まとめ
ここでは力学的なエネルギー保存則を復習しました。
熱力学第一法則であるエネルギー保存則も、基本的な考え方は力学的エネルギー保存則と同じです。
今回学んだことをイメージに置きながら、次回は熱力学的エネルギー保存則を見ていきましょう。