気体

混合気体-1|全圧と分圧

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特に断ってはいませんでしたが、ここまで進めてきた気体の話は1種類の気体を想定していました。窒素であれば窒素のみ、酸素であれば酸素のみです。

しかし空気を考えればわかるように、窒素や酸素など何種類かの気体が混ざっている場合があります。そのような混合気体の圧力はどのように扱えばよいのでしょうか。

ドルトンの分圧の法則

混合気体の圧力については有名なドルトンの分圧の法則があります。

多成分混合気体では、混合系全体の圧力 \(\small P\) は \(\small i\) 成分気体の分圧 \(\small p_i\) の和で与えられるという法則。

分圧の法則-化学辞典より引用


数式だと\(\small\,(1)\,\)式で表されます。

\(\small\color{blue}{P=\displaystyle\sum_{i=1}^{c}{p_i}\cdots\text{(1)}}\)

成分の数が \(\small 2\) 種類であれば \(\small c=2\)、\(\small 3\) 種類であれば \(\small c=3\) として、成分の数だけ分圧 \(\small p_i\) を足していきます。

ここで、分圧という言葉が出てきました。混合気体を扱う場合には分圧 Partial Pressure と全圧 Total Pressure が出てきます。

混合気体を構成している成分気体のおのおのが、単独に混合気体と同温で同体積を占めたと仮定したときに示す圧。これに対し、混合気体の示す圧を全圧とよぶことがある。

分圧-化学辞典より引用


たとえば、\(\small 298\,\text{K}\) で \(\small 1\,\text{m}^{3}\) の容器に \(\small 1\,\text{mol}\) の窒素と \(\small 2\,\text{mol}\) の酸素の混合気体が入っているとします。このとき、\(\small 298\,\text{K}\) で \(\small 1\,\text{m}^{3}\) の容器が \(\small 1\,\text{mol}\) の窒素だけで占められているときの圧力が窒素の分圧、\(\small 2\,\text{mol}\) の酸素だけで占められているときの圧力が酸素の分圧、そして窒素と酸素の混合気体の圧力が全圧です。

全圧と分圧の関係

以上のことを数式で表しておきましょう。

取り扱う気体は理想気体とし、温度 \(\small T\) の条件の下で、体積 \(\small V\) の容器に \(\small n_\text{A}\,\text{[mol]}\) の気体 \(\small\text{A}\) と \(\small n_\text{B}\,\text{[mol]}\) の気体 \(\small\text{B}\) が入っていたとします。

ここで、気体 \(\small\text{A}\) の分圧 \(\small p_\text{A}\) は、同じ温度 \(\small T\) の下で同じ体積 \(\small V\) の容器に気体 \(\small\text{A}\) のみが \(\small n_\text{A}\,\text{[mol]}\) 入っているときの圧力のことで、理想気体の状態方程式から得られます。

\(\small\color{blue}{p_\text{A}=\displaystyle\frac{n_\text{A}RT}{V}\cdots\text{(2)}}\)

同様に、気体 \(\small\text{B}\) の分圧 \(\small p_\text{B}\) は\(\small\,(3)\,\)式で与えられます。

\(\small\color{blue}{p_\text{B}=\displaystyle\frac{n_\text{B}RT}{V}\cdots\text{(3)}}\)

そうすると、ドルトンの分圧の法則から全圧 \(\small P\) は\(\small\,(4)\,\)式で計算されます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}P&=p_\text{A}+p_\text{B}\\&=\displaystyle\frac{n_\text{A}RT}{V}+\displaystyle\frac{n_\text{B}RT}{V}\\&=\displaystyle\frac{(n_\text{A}+n_\text{B})RT}{V}\cdots\text{(4)}\end{align}}\)

ここで、混合気体の全物質量を \(\small n\) とすると \(\small n_\text{A}+n_\text{B}=n\) であることから、\(\small(4)\,\)式は\(\small\,(5)\,\)式で書き直されます。

\(\small\color{blue}{P=\displaystyle\frac{nRT}{V}\cdots\text{(5)}}\)

したがって、混合気体の全圧は、種類によらず各成分の物質量の合計分として存在する1つの気体のように考えて計算できます。

さらに分圧について、全圧を使った式に書き直してみます。

\(\small\color{blue}{p_\text{A}=\displaystyle\frac{n_\text{A}RT}{V}=\displaystyle\frac{n_\text{A}}{n}\cdot\displaystyle\frac{nRT}{V}=x_\text{A}P\cdots\text{(6)}}\)

\(\small\color{blue}{p_\text{B}=\displaystyle\frac{n_\text{B}RT}{V}=\displaystyle\frac{n_\text{B}}{n}\cdot\displaystyle\frac{nRT}{V}=x_\text{B}P\cdots\text{(7)}}\)

ここで、全物質量 \(\small n\) に対する成分 \(\small i\) の物質量 \(\small n_i\) の比を表している \(\small x_i\) をモル分率と言います。モル分率を使えば、成分 \(\small i\) の分圧 \(\small p_i\) と全圧 \(\small P\) を関係づけることができます。

\(\small\color{blue}{p_i=x_i P\cdots\text{(8)}}\)

よくある計算

記号で書くとわかりにくくなったかもしれませんが、要は混合気体であっても、単独で存在するときの圧力をそれぞれ考えて計算していけばよいわけです。

ではここで、よくある問題を解いてみましょう。

図1を見てください。


箱の中が仕切りで区切られていて、左側に気体 A、右側に気体 B が入っています。それぞれの気体の圧力と体積は図中に示されているとおりです。

ここで、温度を一定に保ったまま、仕切りを取り外して気体が混合したあとの全圧を求めてみましょう。

上述したように、まずは分圧を求めて、その和を取ると全圧が求められます。分圧は、相手の成分は関係なく、それぞれの成分ごとに体積が広がったときの圧力を求めればよいです。

温度が一定であれば、仕切りを取り外したあとの気体 A と気体 B の圧力はボイルの法則を使って簡単に計算できます。

\(\small\color{blue}{0.04\,\text{MPa}\times 1\,\text{m}^{3}=p_\text{A}\times 4\,\text{m}^{3}}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow p_\text{A}=0.01\,\text{MPa}\cdots\text{(9)}}\)

\(\small\color{blue}{0.08\,\text{MPa}\times 3\,\text{m}^{3}=p_\text{B}\times 4\,\text{m}^{3}}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow p_\text{B}=0.06\,\text{MPa}\cdots\text{(10)}}\)

したがって、全圧は \(\small 0.07\,\text{MPa}\) です。

先に混合したあとの全圧を求めてから分圧を求めることもできます。同じ問題で、気体 A と気体 B の圧力が与えられる代わりに物質量が与えられていた場合は、先に全圧を求めたほうが計算しやすいかもしれません。

図1の条件で計算した物質量を括弧の中に示しています。この物質量と体積のみ与えられているときは、気体 A と気体 B を合わせた混合気体を1つの気体とみなして、まずは全圧を計算します。

\(\small\color{blue}{\begin{align}P&=\displaystyle\frac{nRT}{V}\\&=\displaystyle\frac{(16+97)\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times298\,\text{K}}{4\,\text{m}^{3}}\\&=0.07\,\text{MPa}\cdots\text{(11)}\end{align}}\)

そして、モル分率を利用して分圧を計算します。

\(\small\color{blue}{p_\text{A}=x_\text{A}P=\displaystyle\frac{16}{16+97}\times0.07\,\text{MPa}=0.01\,\text{MPa}\cdots\text{(12)}}\)

\(\small\color{blue}{p_\text{B}=x_\text{B}P=\displaystyle\frac{97}{16+97}\times0.07\,\text{MPa}=0.06\,\text{MPa}\cdots\text{(13)}}\)

このように順を追って考えれば、混合気体の圧力の計算はそれほど難しくはありません。

まとめ

今回は混合気体の圧力について説明しました。

ここでは全圧と分圧の考え方、そしてドルトンの分圧の法則を理解しておけばよいです。よくある計算問題は1つずつ分解して計算していきましょう。