ここまでは理想気体と実在気体の違いを見てきました。
ここからいよいよ理想気体の状態方程式を見ていきます。
理想気体の状態方程式
圧力、体積および温度によって物質の状態を表す方程式が状態方程式です。最も有名な状態方程式は、\(\small(1)\,\)式で与えられる理想気体の状態方程式でしょう。
\(\small\color{blue}{PV=nRT\cdots\text{(1)}}\)
ここで、\(\small P\) は圧力、\(\small V\) は体積、\(\small n\) は物質量、\(\small R\) は気体定数、\(\small T\) は温度を表します。
とてもシンプルな式なので、すぐに覚えられます。
理想気体の状態方程式を見てわかるように、窒素や酸素など気体の種類に依存するパラメータは含まれていないので、気体の種類の区別はありません。
単位に注意
理想気体の状態方程式を使った計算は難しくありませんが、注意することが1つあります。
それは単位です。
理想気体の状態方程式に含まれている \(\small P\)、\(\small V\)、\(\small n\)、\(\small R\)、\(\small T\) それぞれに用いられている単位によっては、単に数値を入れただけでは間違うことがあります。
それぞれの単位を見てみましょう。
圧力 \(\small P\) の単位には \(\small\text{Pa}\)(パスカル)、\(\small\text{atm}\)(アトム)、\(\small\text{bar}\)(バール)、\(\small\text{Torr}\)(トル)などがあります。
古くは気圧(\(\small\text{atm}\))がよく使われていました。私たちが生活している通常の環境での圧力は1気圧(\(\small 1\,\text{atm}\))で表されます。
1というキリのよい数字でわかりやすいですが、今は国際単位系に基づいた \(\small\text{Pa}\) を使うことが標準的です。
次の数値を使ってそれぞれの圧力を変換できるようにしておきましょう。
\(\small\color{blue}{\begin{align}1\,\text{atm}&=1.01325\times10^{5}\,\text{Pa}\\&=1.01325\,\text{bar}\\&=760\,\text{Torr}\cdots\text{(2)}\end{align}}\)
体積 \(\small V\) の単位には \(\small\text{m}^{3}\)(\(\small\text{dm}^{3}\)、\(\small\text{cm}^{3}\))や \(\small\text{L}\)(\(\small\text{dL}\)、\(\small\text{mL}\))が使われます。次の基本的な関係を基に単位を変換できることが必要です。
\(\small\color{blue}{1\,\text{m}^{3}=10^{3}\,\text{L}\cdots\text{(3)}}\)
物質量 \(\small n\) の単位は \(\small\text{mol}\) です。
問題によっては物質量ではなく質量が与えられていることがあります。その場合は分子量で割って物質量に直す必要があります。
気体定数 \(\small R\) といえば \(\small 8.314\) という数字を思い浮かべる人が多いと思います。単位を付けて表すと \(\small 8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) となりますが、単位が変わると数値も変わります。
他によく使われるのは \(\small 0.08206\,\text{L}\,\text{atm}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) という数値です。
温度の単位は \(\text{℃}\) と \(\small\text{K}\)(ケルビン)ですが、計算では絶対温度である \(\small\text{K}\) を使います。
問題を使って計算を確認しておきましょう。
体積 \(\small 1\,\text{m}^{3}\) のボンベに入っている理想気体の圧力が \(\small25\)\(℃\) で \(\small 1.01325\times10^{5}\,\text{Pa}\) であった場合、その物質量は\(\small\,(4)\,\)式で求められます。
\(\small\color{blue}{\begin{align}n&=\displaystyle\frac{PV}{RT}\\&=\displaystyle\frac{1.01325\times10^{5}\,\text{Pa}\times1\,\text{m}^{3}}{8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times(25+273.15)\text{K}}\\&=41\,\text{mol}\cdots\text{(4)}\end{align}}\)
ちなみに \(\small\text{Pa}\) と \(\small\text{m}^{3}\) の積が \(\small\text{J}\)(ジュール)です。
\(\small\color{blue}{\text{Pa}\,\text{m}^{3}=\text{N}\,\text{m}^{-2}\,\text{m}^{3}=\text{N}\,\text{m}=\text{J}\cdots\text{(5)}}\)
体積 \(\small 1000\,\text{L}\) のボンベに入っている理想気体の圧力が \(\small25\)\(℃\) で \(\small 1\,\text{atm}\) であった場合、その物質量は\(\small\,(6)\,\)式で求められます。
\(\small\color{blue}{\begin{align}n&=\displaystyle\frac{PV}{RT}\\&=\displaystyle\frac{1\,\text{atm}\times1000\,\text{L}}{0.08206\,\text{L}\,\text{atm}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times(25+273.15)\text{K}}\\&=41\,\text{mol}\cdots\text{(6)}\end{align}}\)
\(\small1\,\text{m}^{3}=1000\,\text{L}\)、\(\small 1.01325\times10^{5}\,\text{Pa}=1\,\text{atm}\) なので、これら2つの問題の答えは同じです。
問題に与えられている数値と気体定数の単位が共通している場合は使う気体定数に気をつけるだけでいいですが、単位が異なる場合は注意が必要です。
たとえば、体積 \(\small2000\,\text{cm}^{3}\) のボンベに入っている理想気体の圧力が \(\small25\)\(℃\) で \(\small 2\,\text{atm}\) であった場合の物質量を求めたいときは、気体定数の単位 \(\small \text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) あるいは \(\small\text{L}\,\text{atm}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\) のどちらかにそろえて計算をしましょう。
\(\small\color{blue}{\begin{align}n&=\displaystyle\frac{PV}{RT}\\&=\displaystyle\frac{2\times1.01325\times10^{5}\,\text{Pa}\times2000\times10^{-6}\,\text{m}^{3}}{8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times(25+273.15)\text{K}}\\&=0.16\,\text{mol}\cdots\text{(7)}\end{align}}\)
\(\small\color{blue}{\begin{align}n&=\displaystyle\frac{PV}{RT}\\&=\displaystyle\frac{2\,\text{atm}\times2\,\text{L}}{0.08206\,\text{L}\,\text{atm}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times(25+273.15)\text{K}}\\&=0.16\,\text{mol}\cdots\text{(8)}\end{align}}\)
単位さえ気をつけておけば、理想気体の状態方程式を使った計算は難しくありません。求めたい量を左辺に持ってきて式を変形し、単位に注意して問題に与えられている数値を代入しましょう。
ボイルの法則、シャルルの法則との関係
気体の性質を表す関係式として化学で最初に勉強するのは、ボイルの法則とシャルルの法則です。
ボイルの法則は\(\small\,(9)\,\)式で表されます。
\(\small\color{blue}{PV=C\cdots\text{(9)}}\)
ここで、\(\small C\) は一定の数を表しています。
ボイルの法則と理想気体の状態方程式を比べると次の関係が得られます。
\(\small\color{blue}{C=nRT\cdots\text{(10)}}\)
この関係から、\(\small C\) が一定の数であるためには \(\small n\)、\(\small R\)、\(\small T\) が一定の数でなければいけないことがわかります。
\(\small R\) は気体定数なので一定であり、また通常は一定量の気体の変化を考えるので物質量 \(\small n\) も一定です。したがって、残る温度 \(\small T\) も一定である必要があります。
式ばかり注目してつい忘れがちですが、ボイルの法則は温度一定の条件で成り立ちます。ボイルの法則を表すときに反比例のグラフを描きますが、あの曲線は温度一定の条件下で描かれていることに注意が必要です。
シャルルの法則は\(\small\,(11)\,\)式で表されます。
\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{V}{T}=C\cdots\text{(11)}}\)
シャルルの法則と理想気体の状態方程式を比べると次の関係が得られます。
\(\small\color{blue}{C=\displaystyle\frac{nR}{P}\cdots\text{(12)}}\)
したがって、シャルルの法則は圧力一定の条件の下で成り立つことがわかります。
ボイルの法則とシャルルの法則を組み合わせて理想気体の状態方程式は得られているので、気体の性質に関する問題は理想気体の状態方程式だけで解くことができます。
ボイルの法則やシャルルの法則を忘れてしまったときは理想気体の状態方程式を駆使して問題を解きましょう。
まとめ
ここでは理想気体の状態方程式を見てきました。
式は簡単な形なので、覚えることは難しくないでしょう。計算も難しくはありませんが、とにかく単位に注意することが大事です。ここに限らず、何か計算をするときは、数値だけでなく単位も含めて計算することをお勧めします。
次回は理想気体の状態方程式が描くグラフを見ていきます。