気体

実在気体-4|理想気体との比較

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ここまで、実在気体の代表としてファン・デル・ワールスの状態方程式を見てきました。

ここであらためて理想気体と実在気体のグラフや式を比較し、そこからわかることについて説明します。

理想気体と実在気体のグラフ

理想気体と実在気体について、同じ条件でグラフがどのように表されるか比較してみましょう。

まずは温度を \(\small 150\,\text{K}\) とし、これまでどおり実在気体は窒素の値を使って計算します。この条件で、理想気体とファン・デル・ワールスの状態方程式から得られるグラフを図1に示します。


\(\small 150\,\text{K}\) は窒素の臨界温度より高温であるため、理想気体だけでなく実在気体の曲線も反比例のグラフとなっています。

ここで大事なことは、体積が小さい領域では理想気体と実在気体の曲線に差が現れているのに対し、体積が大きい領域では曲線がほとんど重なっていることです。同じことを圧力の視点から言うと、圧力が小さい領域では理想気体と実在気体の曲線がほとんど重なっていて、圧力が大きくなるにつれて曲線に差が現れるようになっています。

もう1つ例として、窒素の臨界温度より低温(\(\small 110\,\text{K}\))のときに理想気体とファン・デル・ワールスの状態方程式から得られるグラフを図2に示します。


前回はファン・デル・ワールスの状態方程式のみを考えていたので、曲線の形を強調するために、体積は \(\small 0~0.0006\,\text{m}^{3}\) の範囲で見ていました。今回は理想気体と比較するために同じグラフに載せましたが、前回見ていた領域は体積が十分に小さいところ(図2の左側)を拡大して見ていたことがわかります。

すこし話は逸れますが、1つ1つのグラフを拡大してしっかり見ていくことも大事ですが、スケールを合わせて2つ以上のグラフを比較することで、どのような大小関係にあるかを知ることも大事です。細かく見ていたことが実は些細なことで、無視して構わなかったということはよくある話です。

さて話を戻して、図2からわかることは、やはり体積が大きい(圧力が小さい)領域では理想気体と実在気体にそれほど差はないことです。

前回、気体の液化の話をしましたが、それは体積が十分に小さい領域での話だったことがわかります。

実在気体が理想気体に近づく条件

実在気体の細かい特徴は置いておいて、根本的な気体の性質だけを取り出したのが理想気体でした。その意味で、理想気体と実在気体は同じものではありません。

しかし図1、図2で見てきたように、体積が大きい領域、あるいは圧力が小さい領域では実在気体を理想気体とみなしても問題なさそうです。理想気体の状態方程式を使っても、ファン・デル・ワールスの状態方程式を使っても、求められる圧力はほぼ同じなわけですから。

実在気体では、理想気体で無視していた分子の大きさと分子間力の影響を考えなければいけません。しかし、体積が大きい領域ではこれら2つの影響が無視できるほど小さくなった結果、実在気体が理想気体に近づいたと考えることができます。

分子の大きさについては、たとえば気体分子が全部で \(\small 20\,\text{cm}^{3}\) の体積を持つとしたとき、その気体が \(\small 100\,\text{cm}^{3}\) の箱に入っているか、それとも \(\small 100\,\text{m}^{3}\) の箱に入っているかで、箱の中を占める気体分子の体積の割合は変わってきます。箱が大きくなればなるほど、気体の体積は相対的に無視できるほど小さくなります。

分子間力についてはどうでしょうか。

一般的に、分子間の距離が近いほうが分子間力は強くなります。そうすると、箱の体積が小さいときは平均的に分子間の距離が近いのに対し、箱の体積が大きいときは平均的に分子間の距離が遠いので、やはり箱が大きくなればなるほど分子間力の影響も小さくなると考えられます。

以上のことから、図1、図2で見たように、体積が大きい領域で実在気体が理想気体に近づくことはきちんと説明がつきます。

また以前に、私たちが通常生活している環境での圧力下では実在気体を理想気体として考えてもよいと書きました。

1気圧は \(\small 101,325\,\text{Pa}\) であり、およそ \(\small 0.1\,\text{MPa}\) です。これを図1に入れてみましょう。


図3から明らかなように、このグラフ上では1気圧は非常に小さい圧力です。理想気体と実在気体の差は無視できる領域のため、実在気体を理想気体として考えても問題なさそうです。

それからもう1つ。

ファン・デル・ワールスの状態方程式は気体の種類を区別する変数が入っているので、同じ温度でも気体の種類によって描かれる曲線は違います。しかし、体積が大きい領域では実在気体は理想気体に近づくため、気体の種類の差も無くなるはずです。

このことを確認するために、いくつかの気体についてファン・デル・ワールスの状態方程式を使って曲線を描いてみました(温度は \(\small 273\,\text{K}\) としました)。


この温度では二酸化炭素やプロパンを圧縮すると液化するなど、体積が小さい領域では気体の種類によって違いが見られます。しかし体積が大きい領域では、やはり気体の種類の差は無くなっています。

状態方程式に条件をあてはめる

ここまでは、グラフを描いて理想気体と実在気体を比較してきました。そこでわかったことは、体積が大きい領域では実在気体が理想気体に近づくことです。

実はこのことは、状態方程式から見ても当然の結果と言えます。

あらためてファン・デル・ワールスの状態方程式を示します。

\(\small\color{blue}{\left(P+\displaystyle\frac{an^{2}}{V^2}\right)\cdot V\left(1-\displaystyle\frac{nb}{V}\right)=nRT\cdots\text{(1)}}\)

後の説明をわかりやすくするために、少しだけ式を変形しています。

さてここで、体積を大きくしていったときの極限を考えると、次の関係が成り立ちます。

\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{an^{2}}{V^2}\rightarrow 0\cdots\text{(2)}}\)

\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{nb}{V}\rightarrow 0\cdots\text{(3)}}\)

したがって、体積が大きくなるとファン・デル・ワールスの状態方程式は理想気体の状態方程式に近づきます。

\(\small\color{blue}{PV=nRT\cdots\text{(4)}}\)


以上から、状態方程式を見ただけでも実在気体が理想気体に近づく条件はわかります。

まとめ

今回で実在気体の話は終わりです。

通常の環境下では実在気体を理想気体とみなしてもよく、そういう意味では理想気体の状態方程式はシンプルでありながらも大事であることがわかります。一方で、気体が液体に変化することを説明するためには実在気体の状態方程式が必要です。

状態方程式は式を覚えるだけでなく、どのようなグラフを描くのか、そして異なるグラフが示す意味を説明できるようになっておくことが望ましいです。