偏微分を使う計算例として、ファン・デル・ワールス状態方程式の臨界点を見てみましょう。
ファン・デル・ワールス状態方程式は、理想気体の状態方程式で無視していた分子の大きさと分子間力を考慮した式で、\(\small(1)\,\)式で表されます。
\(\small\color{blue}{\displaystyle\left(P+\frac{an^2}{V^2}\right)(V-nb)=nRT\cdots(1)}\)
ここで、\(\small a\) と \(\small b\) は気体の種類に依存する定数です。
まずはファン・デル・ワールス状態方程式がどのような曲線なのか、いくつかの温度でグラフを描いてみましょう。
温度が高いときは反比例のような曲線になっていますが、温度が低くなるにつれて極小が現れるようになります。これがファン・デル・ワールス状態方程式の特徴です。
極小が現れる温度と現れない温度の境界にあたる温度を臨界温度 \(\small T_c\) といいます。図1では \(\small 300\,\text{K}\) が \(\small T_c\) に対応しています。
\(\small T_c\) の曲線には図1の点線で示したように傾きが \(\small 0\) になる点が現れます。この点を与える体積を臨界体積 \(\small V_c\)、圧力を臨界圧力 \(\small P_c\) といいます。
\(\small V_c\) は \(\small 260\,\text{K}\) および \(\small 280\,\text{K}\) の曲線で見られる極大と極小が最終的にたどり着く点です。その様子を図2に示します。
したがって、\(\small V_c\) を求めるときは極値の条件、すなわち傾きが \(\small 0\) となる条件を利用します。この条件は\(\small\,(2)\,\)式で表されます。
\(\small\color{blue}{\displaystyle\left(\frac{\partial P}{\partial V}\right)_{T=T_c}=0\cdots(2)}\)
ここで、温度は一定であり、その温度は臨界温度 \(\small T_c\) です。
\(\small(2)\,\)式の偏微分を行うと\(\small\,(3)\,\)式が得られます。
\(\small\color{blue}{\displaystyle P=\frac{nRT}{V-nb}-\frac{an^2}{V^2}}\)
\(\small\color{blue}{\displaystyle\left(\frac{\partial P}{\partial V}\right)_{T=T_c}=-\frac{nRT_c}{(V-nb)^2}+\frac{2an^2}{V^3}\cdots(3)}\)
\(\small(3)\,\)式で \(\small V=V_c\) のときに傾きが \(\small 0\) となります。
\(\small\color{blue}{\displaystyle\left(\frac{\partial P}{\partial V}\right)_{T=T_c}=-\frac{nRT_c}{(V_c-nb)^2}+\frac{2an^2}{V_c^3}=0}\)
\(\small\color{blue}{\displaystyle\Rightarrow\frac{nRT_c}{(V_c-nb)^2}=\frac{2an^2}{V_c^3}\cdots(4)}\)
\(\small(4)\,\)式のみでは \(\small T_c\) や \(\small V_c\)、\(\small P_c\) を求められないので、もう1つ条件を追加します。\(\small T_c\) の曲線で \(\small V_c\) の点は極値であると同時に変曲点でもあるので、その条件を使います。
続きは次回にしましょう。