計算

物理化学の数学|偏微分-2

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理想気体の状態方程式を偏微分して得られた式がどのようなことを意味するか考えましょう。ここで説明する式の見方は、他で出てくる物理化学の式にもあてはまります。

理想気体の状態方程式で \(\small n=1\,\text{mol}\)、\(\small R=8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\)、\(\small T=298.15\,\text{K}\) として、縦軸に圧力 \(\small P\)、横軸に体積 \(\small V\) を取ったグラフを描きます。

また、温度一定で理想気体の状態方程式の圧力を体積で偏微分すると\(\small\,(1)\,\)式が得られます。

\(\small\color{blue}{\displaystyle\left(\frac{\partial P}{\partial V}\right)_T=-\frac{nRT}{V^2}\cdots(1)}\)

\(\small(1)\,\)式は微分なので、図1の曲線の傾きを表しています。たとえば \(\small V=3\,\text{m}^3\) のとき、\(\small(1)\,\)式の右辺は次のように計算されます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle\left(\frac{\partial P}{\partial V}\right)_T&=-\frac{nRT}{V^2}\\&=-\frac{1\,\text{mol}\times8.314\,\text{J}\,\text{K}^{-1}\,\text{mol}^{-1}\times298.15\,\text{K}}{\left(3\,\text{m}^3\right)^2}\\&=-275\,\text{Pa}\,\text{m}^{-3}\cdots(2)\end{align}}\)

同様にいくつか計算した結果を表1にまとめます。

図2は表1の傾きを点線で示したグラフです。

このように、\(\small(1)\,\)式の左辺は温度一定で体積が少し変化したときの圧力の変化量、つまり図1の曲線の傾きを表しています。

図1は温度が \(\small 298.15\,\text{K}\) で一定のときの圧力-体積曲線ですが、温度が変われば別の曲線が描かれ、それに合わせて傾きも変化します。たとえば \(\small T=398.15\,\text{K}\) で一定とすると図3の曲線が描けます。

\(\small(1)\,\)式を使って傾きを計算すると表2が得られます。


図4に、温度を変えたときの圧力-体積曲線をいくつかまとめて描いたグラフを示します。

図4に示しているように、ある体積のところで線を引いてそれぞれの曲線と交わった圧力の値をグラフにすると図5が得られます。

図5は体積一定のときの圧力と温度の関係を表したグラフで、このグラフの傾きは体積一定で圧力を温度で偏微分した結果のことです。

\(\small\color{blue}{\displaystyle\left(\frac{\partial P}{\partial T}\right)_V=\frac{nR}{V}\cdots(3)}\)

\(\small(3)\,\)式に数値を代入した結果を表3に示します。

当然のことながら、これらの数値は図5の直線の傾きと一致します。

理想気体の状態方程式の場合、温度が変わっても体積が変わっても、圧力は変化します。そうすると、理想気体の状態方程式は、圧力と温度、体積の3つの変数を \(\small x\) 軸、\(\small y\) 軸、\(\small z\) 軸に取った3次元のグラフを描くはずです。

偏微分では、その3次元のグラフのある温度一定の平面で切ったときにできる圧力-体積曲線(図4)を、あるいはある体積一定の平面で切ったときにできる圧力-温度曲線(図5)を対象にしています。

したがって、偏微分は2次元の平面で表した場合の微分と考えることができます。そして、3次元のグラフそのものを対象にしているのが全微分です。

まずは偏微分の計算ができることが大事ですが、どういうことをしているのか何となくでも想像できるとより理解が進みます。