アルキメデスの原理にまつわる話を聞いたことはありますか?
昔、アルキメデスは王様から「金で作られているはずの王冠に他のものが混ざっていないか調べてほしい」と頼まれました。王冠を壊さずに調べなければならず、アルキメデスは悩みました。
ある日、お風呂に入っているときにアルキメデスはひらめきます。お風呂につかった分だけお湯がこぼれることを利用すればいいじゃないか、と。かくしてアルキメデスは、その方法を使って王冠に金以外のものが混ざっていることを示しました。
およそこのような話ですが、その方法について深く考えたことはありませんでした。しかし、せっかく密度や比重について勉強してきたので、ここでもう少し考えてみましょう。
そもそもアルキメデスの原理とは水のような流体中にある物体が受ける浮力に関する原理で、浮力の大きさは物体の体積に相当する流体にはたらく重力と同じ大きさ、というものです。ここでは、密度の視点から見ていきます。
王冠に混ざっている金以外のものを銀とします。どうも、職人に金塊を渡して王冠を作らせたものの、そこに銀を混ぜて王冠を作ることで余った金を職人が自分のものにしてしまったという噂があったことから、王様はアルキメデスに調べさせたそうですから。
金と銀の密度はそれぞれ \(\small 19.3\)、\(\small 10.5\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}\) であり、かなり違うことを利用します。まず、王冠とまったく同じ重さの金塊と銀塊を用意します。王冠が \(\small 500\,\text{g}\) だとすると、金塊と銀塊も \(\small 500\,\text{g}\) 用意します。これら金塊と銀塊の体積はどのくらいでしょうか?
金塊 \(\small\color{blue}{500\,\text{g}}\) の体積
\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{500\,\text{g}}{19.3\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}}=25.9\,\text{cm}^{3}}\)
銀塊 \(\small\color{blue}{500\,\text{g}}\) の体積
\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{500\,\text{g}}{10.5\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}}=47.6\,\text{cm}^{3}}\)
結構ちがいますよね。では、水をためた桶に金塊 \(\small 500\,\text{g}\) あるいは銀塊 \(\small 500\,\text{g}\) を入れます。そうすると上の計算からわかるように、金塊よりも銀塊を入れたときのほうがこぼれる水の量は多くなるはずです。
そこで王冠の登場です。水をためた桶に王冠を入れたとき、金塊 \(\small 500\,\text{g}\) を入れたときと同じ量だけ水がこぼれるのであれば、その王冠は金のみからできていると考えられます。金塊と王冠では形が違いますが、同じ材料でできていて重さが同じであればどんな形でも体積は同じはずです。
では、水をためた桶に金と銀の混ざった王冠を入れるとどうなるでしょうか?そうです、金塊 \(\small 500\,\text{g}\) を入れたときよりもたくさん水がこぼれてしまいます。したがって、その王冠には金以外のものが含まれていると考えられます。
このようにすれば、王冠の形を変えることなく、王冠が金だけでできているかどうかがわかります。実際にどんな実験をしたのかは諸説あるようですが、考え方としてはここに示したようなことです。