熱力学

熱力学-04|仕事

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熱力学第一法則の式に出てくる項の中から、今回は仕事を取り上げて見ていきます。

日常生活も含めてさまざまな意味を持つ仕事という言葉。

熱力学の中ではどのような意味を表わすのか、あらためて考えてみましょう。

仕事とは

物理では、一定の力 \(\small F \) で物体を距離 \(\small x \) だけ動かしたときの仕事 \(\small W \) を (1) 式で計算します。

\(\small\color{blue}{W=Fx\cdots(1)}\)

ここでは仕事の意味を考えるために、位置エネルギーの話を持ってきます。

地面を基準として高さ \(\small h \) まで質量 \(\small m \) の物体を持ち上げるのに必要な仕事を計算しましょう。

この物体にはたらく力 \(\small F \) は質量 \(\small m \) と重力加速度 \(\small g \) の積で求められます。

\(\small\color{blue}{F=mg\cdots(2)}\)

この力で高さ \(\small h \) まで物体を動かすので、(1) 式にしたがって仕事 \(\small W \) が計算されます。

\(\small\color{blue}{W=Fx=mgh\cdots(3)}\)

ここで1つ、細かい話をしておきます。

物体には下向きに \(\small mg \) の力がはたらいているので、上に持ち上げるためにはこの力よりも大きい力が必要です。

そうすると、(3) 式の計算で使った上向きの \(\small mg \) の力では下向きの力とただ釣り合っているだけで持ち上がらないはずです。

持ち上がるということは、物体に \(\small mg \) よりも大きい力がはたらいていることを意味します。

したがって厳密に言うと物体にはたらく上向きの力は \(\small mg \) ではありませんが、わずかでも大きければいいので、それはほぼ \(\small mg \) と等しいとして計算を行っていきます。

余談はさておき、(3) 式で仕事を計算できました。

そして (3) 式は位置エネルギーの式と同じであることがわかります。

したがって仕事をして物体を持ち上げると、その分だけ物体は位置エネルギーを蓄えます。

こうして蓄えられたエネルギーは他のエネルギーへ変えられます。

別の物体に紐をつなげて落とすとその物体を持ち上げられますし、水に入っている撹拌機を回すと水の温度を上げられます。

このように、仕事を介してエネルギーが移動していくことがわかります。

以上をまとめると、系が周りから仕事をされるとその系のエネルギーが増加し、系が周りに仕事をするとその系のエネルギーが減少する、そのように考えられます。

微小変化と有限変化

ここで、物理化学でよく使う考え方、計算の仕方に触れておきます。

これは仕事の計算だけでなく、物理化学のさまざまな場面で使う基本的な考え方です。

式を組み立てるとき、物理化学ではよく微小変化を考えます。

微小変化とはごくわずかな変化のことです。

仕事の計算であれば、(1) 式の代わりに、一定の力 \(\small F \) で物体をほんの少しの距離 \(\small\text{d}x \) だけ動かしたときの仕事 \(\small\text{d}W \) を (4) 式で表わします。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=F\text{d}x\cdots(4)}\)

(4) 式はとても便利な表わし方です。

たとえば、ある位置 \(\small x_1 \) から別の位置 \(\small x_2 \) へ物体を移動させたときの仕事 \(\small W \) は (4) 式を積分することによって求められます。

\(\small\color{blue}{W=\displaystyle\int_{x_1}^{x_2}F\text{d}x\cdots(5)}\)

物体を移動させる力 \(\small F \) が一定であれば、さらに (5) 式を解くことができます。

\(\small\color{blue}{W=F\displaystyle\int_{x_1}^{x_2}\text{d}x=F(x_2-x_1)\cdots(5)}\)

もし力 \(\small F \) が位置 \(\small x \) によって変化するのであれば、それをふまえて積分をすればよいです。

わざわざこのように考えなくても、(1) 式の定義から (6) 式はすぐに出てきます。

しかし、今後さまざまな式を解いていく上でこの考え方をよく使うので知っておいてください。

気体の体積変化による仕事

(1) 式や (4) 式は物理でよく出てくる仕事の定義式です。

これを物理化学でよく使う式に変形してみましょう。

ここでは、ピストンに入っている気体の体積変化にともなう仕事を計算します。

気体が外界に対して仕事をして膨張するときを考えましょう。

図1.外圧に逆らってピストン内の気体が膨張した場合。

ピストンは外圧 \(\small P_\text{ex} \) で押されています(ピストンの重さは無いものとします)。

この外圧に逆らって、\(\small P_\text{ex} \) の圧力でピストン内の気体がピストンを押し上げると考えます。

圧力は単位面積あたりの力なので、ピストンの断面積を \(\small A \) とすると、ピストンを押す力 \(\small F \) は (7) 式で与えられます。

\(\small\color{blue}{F\,\text{[N]}=P_\text{ex}\,\text{[N}\,\text{m}^{-2}]\times A\,\text{[m}^{2}]\cdots(7)}\)

(4) 式に (7) 式を代入します。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=P_\text{ex}A\text{d}x\cdots(8)}\)

ここで、ピストンの断面積と移動距離の積 \(\small A\text{d}x \) はピストンが動いたところの体積変化 \(\small \text{d}V \) になっています。

\(\small\color{blue}{\text{d}V=A\text{d}x\cdots(9)}\)

(8) 式に (9) 式を代入します。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=P_\text{ex}\text{d}V\cdots(10)}\)

また、外界から系に対してされた仕事を正に、系が外界に対してした仕事を負に取るために、(10) 式の右辺にマイナスを付けます。

\(\small\color{blue}{\text{d}W=-P_\text{ex}\text{d}V\cdots(11)}\)

外界から系に対して仕事がされた、つまり気体が圧縮された場合は気体の体積が減少しているので、変化した後から変化する前を引く体積変化 \(\small \text{d}V \) は負の値となります。

このとき計算される仕事を正とするために、(10) 式にマイナスを付けて (11) 式にしておく必要があります。

逆に、系が外界に対して仕事をした、つまり気体が膨張した場合は気体の体積が増加しているので、体積変化 \(\small \text{d}V \) は正の値となります。

このとき計算される仕事を負とするためには、やはり (11) 式のようにマイナスが必要です。

(11) 式が気体の体積変化による仕事の基本式です。

あとは条件に合わせて計算すればよいです。

\(\small V_1 \) から \(\small V_2 \) へ気体の体積が変化したときは (11) 式を積分します。

\(\small\color{blue}{W=-\displaystyle\int_{V_1}^{V_2}P_\text{ex}\text{d}V\cdots(12)}\)

外圧 \(\small P_\text{ex} \) が一定であれば、さらに計算できます。

\(\small\color{blue}{W=-P_\text{ex}(V_2-V_1)\cdots(13)}\)

まとめ

今回は仕事について説明しました。

特に大事なのは、気体の体積変化による仕事を計算する (11) 式です。

この式だけは覚えてしまいましょう(自分で求められるようになるとベストです)。

次回は、熱力学第一法則の最後の項である内部エネルギーの話をします。