気体

実在気体-3|ファン・デル・ワールスの状態方程式が描くグラフの見方

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理想気体の状態方程式とファン・デル・ワールスの状態方程式が描くグラフは大きく異なります。ここでは、ファン・デル・ワールスの状態方程式が描くグラフの見方を説明します。

臨界温度より低い温度での曲線

ファン・デル・ワールスの状態方程式による曲線のうち臨界温度より高い温度では、理想気体の状態方程式と同様に、気体はどれだけ圧縮されても気体のままと考えておけばよいです。

では、臨界温度より低い温度ではどうなるでしょうか。

前回示した窒素の例で、図1に \(\small110\,\text{K}\) の曲線を示します。


前回示した図に、点線を1本加えています。その理由は後ほど説明しますので、まずはこの点線はあるものとして説明をしていきます。

また説明のため、点 A から点 E まで図1に加えました。点 A、C、E は点線との交点、点 B と点 D はそれぞれ極大点と極小点を表します。

体積が大きい領域(図1の右側)から、曲線に沿って体積を小さくしていくことを考えます。

点 A より体積が大きい領域では、窒素は気体として存在しています。


温度を \(\small110\,\text{K}\) に保ったまま気体の窒素を圧縮していくと、点 A で窒素の液化が始まります。このとき窒素は気体から液体へ変化するので、その体積は急激に小さくなります。図1で言うと、点 A から点 E へジャンプします。


したがって、点 A から点 E への変化は、ファン・デル・ワールスの状態方程式では A → B → C → D → E と曲線を描いているにもかかわらず、実際の変化では曲線上を通らずに飛ばしてしまうことになります。

点 E では窒素はすべて液体に変わっていて、さらに体積を小さくするために圧縮すると、圧力は急激に増加します。

以上をまとめます。

ファン・デル・ワールスの状態方程式が描くグラフにおいて、臨界温度より低い温度で極値を持つ曲線の場合、点 A より右側では気体として存在し、点 E より左側では液体として存在していると言えます。

マクスウェルの等面積則

では、点線の位置はどのように決まるのでしょうか。

この点線の位置がどこでもよければ、同じ温度でも、気体から液体に変わるときの圧力がバラバラになってしまいます。

したがって、点線の位置をどこかに決めるルールが必要です。これについてはマクスウェルの等面積則という、ありがたいルールがあります。

マクスウェルの等面積則では、ABC で囲まれた面積と CDE で囲まれた面積が等しくなるように点線を引くこととなっています。


このルールにしたがうと、点線を引く位置は1つに定まります。

たとえば、図1の曲線では計算の結果、圧力が \(\small1.71\,\text{MPa}\) で点線を引くことで、ABC で囲まれた面積と CDE で囲まれた面積が等しくなります。

曲線 ABCDE の意味

ファン・デル・ワールスの状態方程式が描くグラフから、気体の液化がどのように説明されるかがわかりました。臨界温度より低い温度のときは描かれる曲線上をすべて通るわけではなく、マクスウェルの等面積則が成り立つところでジャンプしてしまうわけです。

ひとまずここまで理解しておけば大丈夫です。

ここからは曲線 ABCDE の意味を補足していきますが、細かい話なので理解できなくてもかまいません。

まず、極値にあたる点 B と点 D がどのように変化するか、計算で求めておきましょう。

極値では傾きが \(\small0\) なので、温度一定の条件の下で、ファン・デル・ワールスの状態方程式の圧力(\(\small(1)\,\)式)を体積で微分した結果を \(\small0\) と置きます。

\(\small\color{blue}{P=\displaystyle\frac{nRT}{V-nb}-\displaystyle\frac{an^{2}}{V^{2}}\cdots\text{(1)}}\)

\(\small\color{blue}{\left(\displaystyle\frac{\partial P}{\partial V}\right)_{T}=-\displaystyle\frac{nRT}{(V-nb)^{2}}+\displaystyle\frac{2an^{2}}{V^{3}}=0}\)
\(\small\color{blue}{\Rightarrow\displaystyle\frac{nRT}{(V-nb)^{2}}=\displaystyle\frac{2an^{2}}{V^{3}}\cdots\text{(2)}}\)

得られた\(\small\,(2)\,\)式を、ファン・デル・ワールスの状態方程式に戻します。

\(\small\color{blue}{\begin{align}P&=\displaystyle\frac{2an^{2}}{V^{3}}\cdot(V-nb)-\displaystyle\frac{an^{2}}{V^{2}}\\&=\displaystyle\frac{2an^{2}}{V^{2}}-\displaystyle\frac{2abn^{3}}{V^{3}}-\displaystyle\frac{an^{2}}{V^{2}}\\&=\displaystyle\frac{an^{2}}{V^{2}}-\displaystyle\frac{2abn^{3}}{V^{3}}\\&=\displaystyle\frac{an^{2}}{V^{2}}\left(1-\displaystyle\frac{2bn}{V}\right)\cdots\text{(3)}\end{align}}\)

この\(\small\,(3)\,\)式が極値の変化を与えます。実際に窒素の値を使って計算し、それをグラフに合わせてみましょう。


一致するのは当然ですが、このようにぴったり合うとやはり気持ちがよいものです。

一方で、マクスウェルの等面積則から決まる点 A と点 E は、たぶん簡単には数式で表せないです。そこでエクセルを使って数値を代入していくことによって力技で求めた値から、大体の形を描くことにします。

以上から、点 A、B、D、E の位置を表す点線を描き入れた圧力-体積曲線を図7に示します。


ここでまず、点 B と点 D で囲まれた領域を見ます。


この領域の曲線上では、体積が小さくなると圧力が小さくなっていることがわかります。しかし実際にそのようなことは起こりえないので、この領域は飛ばしてしまってよいと言えます。

それでは点 A と点 B、点 D と点 E の間はどうでしょうか。


この領域では体積が小さくなると圧力が大きくなっているので起こり得るわけですが、ここは準安定状態といって真に安定な状態ではありません。

わかりやすい例で言うと、過冷却と同じ状態です。

水を冷やしていくと本来は \(\small0\)\(℃\) で氷になるはずですが、\(\small0\)\(℃\) より温度が下がっても氷にならないことがあります。これを過冷却と言いますが、\(\small0\)\(℃\) より温度が低いときの真に安定な状態は氷であって水ではありません。過冷却の状態は準安定状態であり、振動などのちょっとした刺激が加わると急速に氷に変わります。

これと同じことが点 A と点 B、あるいは点 D と点 E の間で起こります。真に安定な状態という意味では、やはりこの領域も飛ばしてしまってよいと言えます。

このように、曲線 ABCDE の領域が飛ばされてしまうのには理由があります。しかしこの話は少し細かいので、そんなものだと知っておくだけで十分です。

まとめ

ここではファン・デル・ワールスの状態方程式が描くグラフを使って、気体の液化を説明しました。

細かい話は抜きにして、臨界温度より低い温度であれば、マクスウェルの等面積則にしたがって点線を引くことができ、その線に沿って気体から液体に変わることがわかりました。

この点が理想気体の状態方程式ともっとも違うところです。

実在気体を表すファン・デル・ワールスの状態方程式について理解が進んだところで、次回はあらためて理想気体と実在気体の関係を見直してみましょう。