気体

理想気体-2|分子の大きさを無視する

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理想気体を考えるときに無視してしまう要素が2つあります。

ここではそのうちの1つ、分子の大きさについて考えます。

質点として考える

分子の大きさを無視するとはどういうことでしょうか。

科学的には、分子は体積を持たず質点とみなす、と表現されます。

物体の質量中心にその全質量が集まっているとみて、その点の位置、運動によって物体の位置、運動を代表させるとき、それを質点という。

「質点」理化学辞典 第3版増補版(岩波書店)

物理で勉強するクーロンの法則で点電荷が出てきますが、質点はそれと同じような考え方です。

では、分子の体積の有無によって何が変わってくるのでしょうか。

箱の中で多数の分子が運動しているときにそれぞれの分子が体積を持つと考えると、その分だけ分子が動ける空間領域は減ります。

したがって厳密には、この減少分を考慮して分子の運動を考えなければならず、話が難しくなってきます。

そこで分子の体積を無視しておくと、箱の体積のままで分子の運動を考えられるようになります。

分子の大きさはどれくらい?

分子の大きさとはどれくらいなのでしょうか。

実はこれは難しい問題で、そもそも何をもって分子の大きさとするのかを考えないといけません。なぜなら、分子はビリヤード球のように明確に境界が区切られているわけではないからです。

その話はまた別の機会に譲るとして、いろいろな研究結果から、分子の半径はおよそ \(\small0.1~0.2\,\text{nm}\)(\(\small1\,\text{nm}=10^{-9}\,\text{m}\))とされています。

では仮に半径が \(\small0.2\,\text{nm}\) の球を考えた場合、その体積は次のとおり計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}v&=\displaystyle\frac{4}{3}\pi r^{3}=\displaystyle\frac{4}{3}\pi\times(0.2\times10^{-9}\,\text{m})^{3}\\&=3.35\times10^{-29}\,\text{m}^{3}\cdots\text{(1)}\end{align}}\)

とても小さな体積ですが、この球が \(\small1\,\text{mol}\)、つまりアボガドロ数個あったらどうでしょうか。

\(\small\color{blue}{\begin{align}V&=3.35\times10^{-29}\times6.02\times10^{23}\\&=20.2\times10^{-6}\,\text{m}^{3}\\&=20.2\,\text{cm}^{3}\cdots\text{(2)}\end{align}}\)

思った以上に大きく、一概に無視できないほどの体積です。これを無視してしまうわけですから、理想気体と実在気体で差が出てきてもおかしくありません。

実在気体が理想気体に近づく条件

実際に持っている体積を無視するので、理想気体は仮想的なものです。しかし条件によっては、分子の大きさの面で、実在気体でも理想気体に近い状態をとることができます。

気体が入っている箱の体積を大きくしていったとしましょう。

箱の体積を大きくしても分子の体積は変わりません。したがって、箱を大きくすればするほど、箱の体積に占める分子の体積が相対的に小さくなっていきます。この「相対的」が重要です。

分子の占める体積に比べて箱の体積が十分に大きくなれば、それは分子の体積を無視することと同じ意味となります。

実際、体積が大きい(つまり圧力が低い)ところでは実在気体は理想気体の挙動に近づきます。それはまた実在気体の話をするときに示します。

まとめ

ここでは理想気体の1つの条件、分子の大きさについて見てきました。

たかが体積、されど体積。体積を考えるかどうかで式の複雑さは変わってきます。

また、ある極限では実際の現象が仮想的なものに近づく、という考え方は物理化学でよく出てくるので慣れておきましょう。

次回はもう1つの条件、分子間力を見ていきます。