濃度

濃度-07|容量モル濃度と質量モル濃度の違い

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前々回と前回で、容量モル濃度と質量モル濃度について説明しました。

定義や計算式を見ると、これら2つの濃度には違いがあります。

しかしそれほど大きな差ではなさそうですし、実験をする上で何か違いはあるのでしょうか?

今回はそのあたりについて説明してみましょう。

とても細かい話になりますので、濃度計算の復習がてら、サラサラと見てください。

容量モル濃度と質量モル濃度の違いは温度の影響があるかどうか

容量モル濃度と質量モル濃度の違いを簡単に言ってしまうと、温度の影響を受けるかどうかです。

温度の影響を受けるのが容量モル濃度、受けないのが質量モル濃度です。

水の温度が \(\small 20\)\(℃\) でも \(\small 30\)\(℃\) でも、水 \(\small 1\,\text{kg}\) は \(\small 1\,\text{kg}\) です。一方、\(\small 20\)\(℃\) の水 \(\small 1,000\,\text{cm}^{3}\) は \(\small 30\)\(℃\) では \(\small 1,000\,\text{cm}^{3}\) になりません。

水の密度(単位体積あたりの重さ)は、\(\small 20\)\(℃\) では \(\small 0.998206\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}\)、\(\small 30\)\(℃\) では \(\small 0.995650\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}\) です。

したがって、次のような計算ができます。

\(\small\color{blue}{20}\)\(\color{blue}{℃}\) の水 \(\small\color{blue}{1,000\,\text{cm}^{3}}\) の重さ
\(\small\color{blue}{1,000\,\text{cm}^{3}\times0.998206\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}=998.206\,\text{g}\cdots(1)}\)

\(\small\color{blue}{30}\)\(\color{blue}{℃}\) の水 \(\small\color{blue}{998.206\,\text{g}}\) の体積
\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{998.206\,\text{g}}{0.995650\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}}=1,002.57\,\text{cm}^{3}\cdots(2)}\)

\(\small 20\)\(℃\) から \(\small 30\)\(℃\) へ温度が上昇することによって、わずかですが水の体積は大きくなります。

容量モル濃度は溶液の体積を使って計算するので、温度によって体積が変わってしまうと濃度も変わってしまいます。

それに対して質量モル濃度は溶媒の重さを使って計算するので、温度が変わっても濃度は変わりません。

温度が変わっても質量モル濃度は変化しません

もう少し具体的に計算してみましょう。

\(\small 40\,\text{g}\) の水酸化ナトリウム \(\small\text{NaOH}\) を \(\small 360\,\text{g}\) の水に溶かして溶液を作ったとします。

まず、この溶液の質量モル濃度 \(\small m\) を計算してください。

\(\small\text{NaOH}\) の式量は \(\small 40\) です。

すぐに計算できるでしょうか。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle m&=\frac{40\,\text{g}}{40\,\text{g}\,\text{mol}^{-1}}\times\frac{1,000\,\text{g}\,\text{kg}^{-1}}{360\,\text{g}}\\&=2.778\,\text{mol}\,\text{kg}^{-1}\cdots(3)\end{align}}\)

溶液の温度が \(\small 20\)\(℃\) から \(\small 30\)\(℃\) に変わったとしても \(\small 360\,\text{g}\) の水は \(\small 360\,\text{g}\) なので計算式は変わらず、

したがって、質量モル濃度は変わりません。

温度が変わると容量モル濃度は変化します

次に容量モル濃度を計算します。

ここで1つ注意することは、\(\small 360\,\text{g}\) の水の体積を使って容量モル濃度を計算してはいけないことです。

なぜなら、容量モル濃度は溶液の体積、すなわち \(\small\text{NaOH}\) 水溶液の体積を使わないといけないからです。

したがって、以下に示す \(\small\text{NaOH}\) 水溶液の密度が必要です。

\(\small\color{blue}{20}\)\(\color{blue}{℃}\) \(\small\color{blue}{\text{NaOH}}\) 水溶液の密度 \(\small\color{blue}{ 1.1089\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}}\)
\(\small\color{blue}{30}\)\(\color{blue}{℃}\) \(\small\color{blue}{\text{NaOH}}\) 水溶液の密度 \(\small\color{blue}{ 1.1043\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}}\)

まず \(\small 20\)\(℃\) の \(\small\text{NaOH}\) 水溶液の容量モル濃度を計算します。

\(\small 400\,\text{g}\)(\(\small 40\,\text{g}\) の \(\small\text{NaOH}\) と \(\small 360\,\text{g}\) の水)の \(\small\text{NaOH}\) 水溶液の体積は次のとおりです。

\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{400\,\text{g}}{1.1089\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}}=360.718\,\text{cm}^{3}\cdots(4)}\)

したがって、\(\small 20\)\(℃\) の \(\small\text{NaOH}\) 水溶液の容量モル濃度 \(\small C\) は次のように計算できます。

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle C&=\frac{40\,\text{g}}{40\,\text{g}\,\text{mol}^{-1}}\times\frac{1,000\,\text{cm}^{3}\,\text{L}^{-1}}{360.718\,\text{cm}^{3}}\\&=2.772\,\text{mol}\,\text{L}^{-1}\cdots(5)\end{align}}\)

同じように、\(\small 30\)\(℃\) の \(\small\text{NaOH}\) 水溶液の容量モル濃度を計算します。

\(\small\color{blue}{\displaystyle\frac{400\,\text{g}}{1.1043\,\text{g}\,\text{cm}^{-3}}=362.220\,\text{cm}^{3}\cdots(6)}\)

\(\small\color{blue}{\begin{align}\displaystyle C&=\frac{40\,\text{g}}{40\,\text{g}\,\text{mol}^{-1}}\times\frac{1,000\,\text{cm}^{3}\,\text{L}^{-1}}{362.220\,\text{cm}^{3}}\\&=2.761\,\text{mol}\,\text{L}^{-1}\cdots(7)\end{align}}\)

いかがでしょうか。

同じように作ったはずの溶液でも、温度が変わるだけで \(\small 0.011\,\text{mol}\,\text{L}^{-1}\)(\(\small =11\,\text{mmol}\,\text{L}^{-1}\))変化してしまいます。

容量モル濃度と質量モル濃度の差は大きいのか小さいのか

この差を大きいとみるか小さいとみるかは、どれくらいの実験精度を求めるかによって変わってきます。

そこまでの精度が必要なければ容量モル濃度でよいでしょうし、かなりの精度が必要であれば質量モル濃度を使ったほうがよいでしょう。

とても細かい計算でしたが、容量モル濃度と質量モル濃度にこのような違いがあることだけでも知っておいてください。